キセキ(プラス)

□07 休日の出会い
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今日は一週間のうちで、社会人、学生ともに待ちに待っていた日である。
ただし、一部の人間は変わらずに日々の生活を送っている。
また、ある一部の人間は待っていなかったかもしれない。


この小日向みかんは、前者である。
一人暮らしを始めて、初めての休みになった。
とりあえず溜まっていた洗濯物や布団を外に干し、空を見上げる。
空は快晴で雲がゆっくりと流れているのが見えた。


時間はまだ午前中。



『・・・出かけようかな?』



つけっぱなしにしていたテレビを消し、財布などを鞄に入れて出かける準備をする。
今までは通学路しか通って来なかったが、今日は玄関を出て学校とは反対の方向に行ってみることにした。


しばらく歩いて行くと住宅街を抜け、そこには結構大きなショッピングモールが建っていた。



『わぁ!おっきい・・・っ!』



始めて見る大きなショッピングモールに圧倒され、見上げながらゆっくりと足を進めると誰かにぶつかってしまった。

「おっ!?」
『あっ、す、すみません』
「おっ、いーっていーって。気をつけろよー。ってぶふぉっ」
『なっ?!な、なんですか?!』

いきなり、指をさして笑われたら小日向ではなくても驚くだろう。
ひとしきり笑った後、ぶつかった彼は小日向の首の後ろに手を回して何かを引っ張った。

『??』
「これ!つけっぱなしで歩いてきたとか、ウケル!」


彼が引っ張ったのは、洋服についていたタグだった。
その事に気が付いて、慌ててタグを取ろうとする小日向だったが中々取れない。
紙の部分はちぎる事ができたが、それに付いていた透明の紐は付いたままだった。
これだけなら、服の中に隠していけるレベルだ。
ひとまずこれでやり過ごそうとしたが、彼がまたしても大爆笑したかと思うと次の瞬間には紐をちぎっていた。


「面白すぎるっしょ。貸してみー」
『?』
「ほら、取れたぜ?」
『あ、ありがとうございます』
「おう。いーってことよ」
『・・・ふふ』


一方的に笑われたはずなのに、全く嫌味を感じず楽しくなってきた小日向もつられて笑ってしまった。
彼とはその場で分かれ、いざショッピングモールに入って行った。
そこには雑誌で見た事のある様々な店舗がズラーっと並んでいて、どこに入ろうか考えただけで小日向は胸を躍らせた。



しかし、それもすぐに・・・





「これとか今の流行りですよー」

「何をお探しですかー?」

「普段はどんな格好してるんですかー?」

「私もそれ買ったんですよー!かわいいですよね」

「鏡に合わせて見て下さいねー」





『・・・』

接客に力を注いでいるショップ店員の怒涛の攻めに、ぐったりし、最初のワクワク感が削がれていった。
また、思った以上に大きなこのショッピングモールは、小日向を歩かせていた。
ここに来るまでにも沢山歩いてきた小日向は、足も疲れてきたので適当にジュースを買って、適当な所で座って休憩していた。



(ゆっくりお買いものしたかったんだけどなー)



しばらくぼんやりとして、缶を捨てるために立ちあがると自販機の側に一人の女の子がじっと見つめているのに気が付いた。
その4,5歳ぐらいの女の子は、小日向を涙目で見つめていた。



『えっと・・・どうしたの、かな??』
「・・・」
『・・・喉かわいたの??』
「(コクン)」
『(えっ?私にどうしろと??)・・・お母さんとかは??』
「(ふるふる)」
『(居ないのかなー?)・・・迷子??』
「(ふるふる)」
『(迷子じゃないの??)えっと・・・』


女の子の大きな瞳からは、今にも涙がこぼれおちそうだった。
全くの他人なので、そのまま立ち去っても良かったのだが良心がいくらか痛む。


『(しょーがないか)・・・何飲む?』
「ファンタ!オレンジの!」
『そこ即答なの!?・・・まぁ、いいけど。はい、どーぞ』
「ありがと!」


小日向からジュースを受け取ると、近くのソファに座り美味しそうに飲み始めた。
どうしたものかと、その様子を見ていたが今更ほっておくわけにもいかず小日向も隣に腰を降ろした。


『えっと・・・あなたのお名前は?』
「成海!お姉ちゃんは?」
『(お姉ちゃん!)小日向みかん。成海ちゃん・・・一人で来たの??』
「うんんー。お兄ちゃん!」
『・・・お兄ちゃんは??』
「買い物行った!」
『・・・はっ?』


さきほどとはうってかわって、饒舌に話しだす女の子。
一緒に来たと言う兄は、一人で買い物に行ったという。


「お姉ちゃん、お兄ちゃんの友達でしょ?」
『えっ?何で??』
「さっき、楽しそうに話してたもん」
『さっき・・・(どのお姉さんの事だ??いや、お兄ちゃんだって事は、いやでも男の店員さんなんていなかったし・・・あと喋ってたって言ったら・・・あっ、入り口の所であった男の子!)あの人の妹か!』
「えへへー」
『(かわいい・・・)私友達っていうか・・』
「・・・違うの?」
『そう!そうなの!友達!』


切なげな瞳に見つめられて、否定できるわけもなく全力で頷くしかなかった。



「やーっと見つけた!」

『・・・あっ』
「お兄ちゃん!」
「ったく、どこ行ったのかと思ったらこんな所に居るとか・・・探したじゃん」
「ご、ごめんなさい・・・」
「あんたも、ありがとな。こいつと一緒に居てくれて」
『えっ、いや。偶々というか、流れでというか・・・』


成海を挟んで、彼も隣に座った。


「っておい、成海。何飲んでんだよ?お前金持ってなかっただろーが」
「お姉さんがくれたー!」
「マジかよ。わりーな。金払うからさ」
『そんな、一本ぐらいいいよ?』
「んなわけにはいかないっしょ。何か飲みたい物あるか?」
「お姉ちゃんさっき飲んでたよー」
「あー・・・じゃあ何か食いに行くか!」
『えっ?』
「よっし!行くぞ!」
「いくぞー!」


楽しそうに立ち上がり、歩みを進める兄弟。
この流れでは一緒にいかなくてはいけないだろう。
帰ろうにも、成海に手を引かれていては帰れない。
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