キセキ(プラス)

□07.5 帰路にて
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小日向と別れて、家路につく高尾兄妹。
妹の成海は、小日向から貸してもらったハンカチを服に当てながら歩いていた。


「ねーねー。お兄ちゃん、嬉しそうだねー??」
「あー?・・・そっかー?」
「うん!にこにこしてる!」
「俺はいっつもニコニコしてるっしょー。ったく、貴重な休みだってーのに、妹と一緒に遊ぶなんて優しいお兄様じゃん?」
「みかんちゃんにも会えたよ!」
「・・・そうだなー」


高尾は、頭の後ろで腕を組むと先ほど出会った小日向を思い出していた。
どこか押しに弱そうな彼女は、やはり押しに弱くて店員にまで気を使っていた。
自分の押しにも無理矢理付き合わせてしまったかとも思ったが、常に楽しそうにしていたので、余計に調子に乗ってしまったかもしれないと少しだけ反省するのだった。
成海も、優しい彼女にとても懐いていたので何か思うところがあるのだろう。
妹を見ると、小日向に貸してもらったハンカチを見ながら笑っていた。


「これでまたみかんちゃんに会えるね!」
「・・・は?」
「成海に感謝してよねー」
「って、おいおい。まさか成海・・・」
「成海の作戦!」
「・・・・それはそれはありがとうございます」
「お兄ちゃんが話し終わるまで、待ってたんだよー?」
「・・・そこまで気をつかってくれたんか」
「えへへへへへー」


成海なりにもう一度会えるようにするにはどうすればいいのか、精一杯考えたすえの行動だったのだろう。
小日向の物を何か持っていれば、それを返しに会えると期待していた。
兄はそんな事をせずとも会う約束を取り付けられる術を持っていたが・・・そのきっかけを作っていたのは、他ならぬ成海だったのだ。


「みかんちゃん、お兄ちゃんの事かっこいいって言ってたよ!」
「へー」
「あー、照れてるー!」
「照れてねーよ!」
「また会うの楽しみだね!」
「はいはい、そーですね。・・・成海再来週って暇だったっけか?」
「再来週??」
「次の次のお休みってこと」
「んー??・・・わかんない」


小日向と再び会えたら成海は確実に喜ぶだろう。
それに、小日向も試合を見るなら知り合いが居たほうが楽しめるのではないかと思う。
今日の様子では、周囲に知らない人ばかりでは気を使って縮こまってしまうかもしれない。
それを想像し、自然に笑ってしまう。


「?お兄ちゃん、どうしたの??」
「いや、なんでもねーよ。・・・まっ、さすがに学校の友だちとか連れてくるか」
「???・・・みかんちゃんかわいかったね!」
「ブフォ!かわいいって!!普通じゃん?」


女子のかわいいと男子のかわいいは違うというが、小日向はあきらかに「普通」に分類される容姿だった気がする。
仲良くなったというひいき目をしてもやはり「普通」であることに変わりないだろう。


「でもお兄ちゃん好きでしょ?」
「はぁ?!」
「だって、女の子とあんなに話してるの初めて見たー」
「俺だって学校とかでは喋ってんだよ。成海が見てないだけで」
「えー・・・」


自惚れではなく、自分はモテルかモテないかで言えば前者だろう。
成海と出歩く時は、もちろん同級生なんか一緒にいないわけで、わざわざ話している姿を見せたり、家で女の子の話なんかしなかったのでそんな印象を持たれるのも仕方がない。


「あー・・・」


しかし、思い返してみるとバスケの練習試合などを見に来ていた成海と応援に来ていたクラスの女子と触れ合いが無かったわけではない。
その場には高尾も居て一緒に話していたが・・・
女子は「私は小さい子好きなの。かわいいでしょ」とアピールしているのが見え見えだったり、「妹を通して高尾君と話せるかも」と下心ありで成海に話しかけていた。
幼いながらもそれを感じていた成海に申し訳なく思い、その時は彼女たちと話すよりも成海と話す事が多かったかもしれない。
その為、目の前であんなに女子と話している兄の姿が不思議だったのだろう。


「余計な心配かけてた?」
「そうだよー!お兄ちゃん、彼女出来なかったらどうしようって・・・」
「ははっ・・・彼女は、まぁ・・・」
「今までのお姉ちゃん達は怖かったけど、みかんちゃんはかわいいもん!」
「・・・そうだなー。みかちゃんは、ちょっと違うかもなー」


いいなと思っていた女の子のそんな一面を見てしまうと、恋心も冷めるというものだ。
その点では、高尾は小日向に恋心とまではいかなかったが興味を抱いているのも自分で認めていた。


「どうしたのー??」
「ハハッ・・・みかちゃんまた会うのが楽しみだな」
「っ!うんっ!!」



勢い良く頷いた為か盛大に転んでしまった成海。


それを見て同じく盛大に笑う高尾だった。








end

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