長編夢
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四月 池袋某カラオケ店
「やっほー、帝人君も杏里も久しぶり!ゆまっちと絵理華さんも」
指定された部屋へ向かうと、紅茶を渋々飲んでいる男女とアニソンを上手に歌っている男女の四人がいた。
「「姫香さん!」」
「「姫香ちゃん!」」
「二人がアニソンなら私はボ●ロだね〜」
言うが早いか、五曲程一気に予約する姫香。
「久しぶり〜、じゃないですよ!退学するなら先に言って下さい!」
「電話で何回も言われたよ…」
正臣と姫香はほぼ同時期に退学した。一部では駆け落ちだとの噂が流れたが、姫香が相変わらず静雄に引っ付いているのでその説はすぐに消えた。
「で、何が聞きたいんだっけ?場合によっては情報料が発生するよ」
「姫香ちゃん、高校生から金搾り取っちゃダメっすよ」
「金欠なんです」
「いつもじゃん」
「絵理華さん、厳しいですよ!」
話についていけていない帝人と杏里。
「あの…僕らに、池袋の案内の仕方を教えて欲しいんです」
「なんだ、そんなことか。無料でいいよ」
どうやら、来良に入学した一年生の一人が帝人に池袋を案内して欲しいと頼んだらしい。
「その後輩、人選下手だね。なんで帝人君なんかに案内を頼むんだろうねぇ?」
「酷いですよ!」
「私も行こうか?」
「え、いいんですか?」
姫香の提案にかじりつく帝人。
「私らも夕方は暇だよ」
「池袋ツアー決定っすね!」
狩沢と遊馬崎に案内をさせたらアニメショップ巡りになってしまうだろうが、姫香がいれば多少はフォローできるはずだ、と判断して帝人は頷いた。
「途中で仕事入ったら抜けるから、よろしくね」
「はい、お願いします」
現在姫香は新羅に借金を返す為に、頼まれていたマネージャーのような仕事をしている。住む場所は今だに見つからず、幽のマンションを借りている。家賃は少し払えるようになってきたが、早く見つけなければ、と焦っている。
「じゃ、決まりだね!杏里とまたデートできる」
「え…?」
反応に困った杏里が帝人に目配せをしている。
「姫香さん、目的違いますよ。」
帝人は相変わらずツッコミ上手だ。
♂♀
夜 池袋某マンション
姫香がテレビを見ながら事務処理をしていると、突然白バイクから逃げ惑う漆黒の影が映しだされた。
「セルティじゃん!大丈夫かな」
セルティの弱点は、極端に言ってしまえば白バイと宇宙人だ。それについこの前新羅が加わって、セルティもドキドキハラハラな毎日を過ごしていることだろう。
「セルティって、可愛いなぁ〜」
守備範囲の広い姫香に首の有無は関係ない。にやにやしながらテレビを見ていると、突然普段使いの携帯の着信音が鳴った。
「もしもし?」
『もしもし、義姉さん?』
「その呼び方照れるから止めてよ。で、どうしたの?電話なんて珍しいじゃん」
『姫香さんの知り合いで、普通じゃない医者いたよね?兄貴の友達』
「いるいる、変な人。その人がどうかしたの?」
電話の相手はこのマンションの持ち主で、今世間を騒がせている超人気俳優・羽島幽平だ。
そんな彼が変な医者になんの用があるというのだろうか。
『診てほしい人がいるんだけど』
「え!?普通じゃない怪我人がいるの?」
『まあ、ね。じゃあ、その人呼んでおいて』「うん、わかった。気をつけてね」
電話を切る。
――誰だろう。あ〜あ、私、三巻までしか呼んでないから話がわからない。ちゃんと読めばよかった…。
話の続きがわかるというのは姫香にとってとても重要な特徴だったが、もう四巻の内容に突入してしまったので先のことはわからない。
――大概の夢小説はこの辺でもとの世界に戻るけど、私はどうなんだろう。まだここにいていいってこと?それとも帰れない?
自由に行き来できるなら楽だろうに、と勝手に苛立つ。しかしそんなに都合よくできないのが現実だ。
やがて考えるのが面倒になり、忘れない内に闇医者を呼ぶことにした。