school life

□第9話
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夏祭り当日。この前新羅先輩に選んでもらった浴衣を着て、下駄がないからサンダルで歩く。最近は浴衣にサンダルも普通だもんね。
課題は私にしては珍しく早く終わらせた。おかげでバイトにたっぷりと時間が使えたし、友達とも沢山遊べた。
普段関わってる人達のキャラが濃すぎるせいで私まで変に勘違いされやすいけど、入学式のときに想像していたみたいに出遅れてはいなかった。話しかければみんな普通におしゃべりしてくれるし、むしろ私をきっかけに静雄先輩と仲良くなる子もいるくらい。みんなに先輩の優しいところが広まれば嬉しいな。
臨也先輩はもともと大人気で、今日なんで私を誘ったのかわからないくらい。あれこれ考えるのが得意ではない私でも、最近は柄にもなく悩むことが多い。それも臨也先輩絡みで。中学生のときから思ってたけど、本当に面倒な先輩だ。
とまあ、暇つぶしに考え事をしながら待ち合わせ場所に来た訳だけど、まだ時間は少し余っている。どうしようか。また考え事をしたらきっと頭が痛くなるし、突っ立ってるだけじゃ面白くない。

「まあいいかー」

バッグから携帯電話を取り出してメールを眺める。誰かが一斉送信してその後会話になったらしく、短い間に20件くらい貯まっていた。

「めんどくさ…」

そういうのはいつもスルーしている。自分に関係があるならたまに返信するけど、ケータイを使い慣れていない私はタイピングが遅くて、話についていけないのがオチ。

「お姉さん、今暇?」

夏祭りだからかナンパしてる人達がいる。誘う女の子いなかったのかな。可哀相に。

「お姉さーん。話聞いてる?」

ああ、無視されちゃったんだ。ますます可哀相。

「お・ね・え・さ・ん!いい加減話聞けコラ」
「え、私!?」

耳元で大声をあげられてようやく気付いた。顔を上げるとチャラい男の人が3人くらいで私を睨んでいた。なんで睨んでるんだろ。私何も悪いことしてないのに。

「お前、平和島静雄の彼女だろ?」
「違います。」

何だろう急に。もしかして、静雄先輩と喧嘩して負けて、報復したくても怖くてできずに、とりあえず先輩の近くにいる私を人質にでもしよう、ってやつ?慣れてるから大丈夫、と思ったけど今日は浴衣だから派手に戦えない。

「嘘つけ!前静雄とお前が相合い傘してんの見たんだよぉ!」
「どんだけ前の話してるんですか!?あれは傘を忘れたからです。私、用事があるので勘弁してください。」
「あぁ!?知るか、んな事ぉ!」

知っとけ。って言うか最初に『暇?』って聞いてきたのに意味はなかったんだ。この人達、私以上に馬鹿なんだろうな。可哀相に。
さて、選択肢は三つ。
1、戦う。
2、逃げる。
3、通報する。
浴衣で戦うのは無理、逃げるにも走りずらい。じゃあ3だね。たまたまケータイ出してるし。110番、110番。

「電話すんなぁっ!」
「あ。」

ガシャンと音をたてて地面に投げつけられた私のケータイ。器物破損ってやつだね。

「……」

壊れたかな。どうだろう。みんなとメールできなくなっちゃったかな。臨也先輩が電話してたらどうしよう。そろそろ待ち合わせの時間だけどまだ来ないし。

「ヘッ。怒るならお前の彼氏に怒りな!」

静雄先輩は彼氏じゃないんだけどなぁ。そもそも私に彼氏なんていないし。好きかもしれない人はいないわけでもないかもしれないけどさ。
そもそも、静雄先輩が嫌いなら堂々と勝負すればいいのに。あ、怖いから私に当たってるんだっけ?
男の人が私のケータイに唾を吐いた。汚い。気持ち悪い。寒気がする。そして、苛立つ。

「おい!何してんだお前ら!」

不良軍団を殴ってやろうと袖をまくった途端、聞き覚えのある大声が降り懸かってきた。

「なんだてめぇ?」
「門田先輩。お久しぶりです。」

屋台でバイトでもしていたのか、頭にハチマキを巻いた、おじさんみたいな姿で現れた先輩。何しに来たんだろう。

「祭で女子高生襲ってんじゃねぇよ」
「うっせぇな!邪魔すんな…ぁ?」

気が付けば先輩は次々と不良達を気絶させていて、私のケータイを拾ってタオルで拭いてくれた。

「鈴木、だったっけか?大丈夫か?」
「あ、ありがとうございます。」

ケータイを受け取って、頭を下げる。助けてもらった経験はあまりないから、不思議な感じ。

「悲鳴の一つでもあげてりゃもっと早く来たんだが…。声も出せないくらいだったのか?」

そんなに親しいわけでもない私を心配してくれるなんて、いい人じゃん。

「慣れてるので、叫ぶのを忘れていました。そうですね、誰かに助けてもらうのもアリですよね。」

ここは人通りもあるしね。なんでここで襲われたんだろう。気絶した人達を見下ろす。要するに、この人達は馬鹿だったんだね。

「てんめぇ…嘗めんなよ!」

あれ?まだいたんだ。不良君が一人、私達の前に立っていた。

「おま…」

門田先輩も呆れている。不良君は銀色に光るナイフを握りしめて、私に向けていた。私、刃物が嫌いなんだよね。昔のトラウマがあるから。

「それ、人に向ける物じゃないですよ。」
「はぁ?な、何だ?ビビってんのか?あぁ?」

ビビっているのは明らかに不良君。私の目を見た途端にブルブルと奮えだした。失礼な人。ちょっと睨んだだけなのに。私は化け物でも何でもないんだけどな。

「しまって下さいよ。危ないですから。」
「んだとゴラ」

門田先輩はどうしたんだろう。隣にいるはずなんだけど、息を吸ってる音が全く聞こえないな。

「早く。」
「あ…あああぁぁっ!」

刺してくる気だ。困ったな。せっかくの浴衣に血がつかないようにしなくちゃ。突進してきた無能な不良君の腕をつかんで、その勢いのまま地面に叩きつけた。
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