school life

□第11話
1ページ/1ページ

9月になった。楽しかった夏休みは終わりを告げる。
残暑がうっとうしく続いていた。

「佳奈!久しぶり〜!」
「久しぶりだねー。夏休み終わったねー。」
「うん。終わった。」

友達同士で補習の賛否について語り合いそうな雰囲気だ。この人はバイトも補習も苦楽を共にした親友。

「で、折原先輩とはどうなったの?」
「は?な、何が?」
「何って、唯一無二の大親友であるこのあたしの誘いを断ってまで折原先輩と一緒に夏祭りに行ったんでしょ。進展はないの?」
「あ、ごめん!そんなに私と夏祭り行きたかったんだ。言ってくれれば良かったのに。」
「あたしがあの折原先輩に勝てる訳ないじゃん。で、何気なく話そらさないでよ」
「ほ、ほら、始業式始まるよ!早く体育館行かないと。」

進展って何のことだろう?別に、臨也先輩と何かあったわけじゃないしね。抱き着かれてキスされたってだけ…うわ、これって大問題じゃん!

「佳奈ちゃん、おはよう」
「ひッ」
「朝から元気だね〜。相変わらず表情が目まぐるしく変わるんだから。」

誰かと思ったら新羅先輩だった。毎度毎度、一人で色々考え事をしている時に急に話しかけないでほしい。心臓が止まるかと思った。

「おはようございます。」
「私も朝起きてセルティに『おはよう』って言われたら一日元気だけどね。今朝は『おい、今日から高校始まるんだろ!急がないと遅刻するんじゃないのか?』って心配してくれたんだよ。」

話しかけてきたんじゃなくて、語りに来たようだ。それにしても、セルティさんに心配してもらえるなんて羨ましい。

「で、佳奈ちゃんは臨也と何かあった?」
「なんでそうなるんですか!?話題が急に変わりすぎですよ!」
「そろそろ付き合うんじゃないかな〜って思ってたんだけど、どうなの?」
「す、好きでもなんでもないのになんで付き合うんですか?」
「あ〜、まだそんなこと言ってたんだ。」

へらへらしてる先輩が珍しく真剣な顔つきになった。顎に手をあてて眉をひくひく動かしている。珍しいどころか異常だよ。何!?私何か変なこと言った?

「臨也が少し可哀相だから素直になってみなよ。」

考え込んでたと思いきや、また急にいつもの表情にもどった。結論、簡単過ぎませんか?

「…私はいつでも素直ですよ。」

捻くれ者だったら静雄先輩と仲良くなんて出来ないはず。

「佳奈ちゃんさ、臨也と話してる時楽しそうだよ。」
「な!?そ、そんなことないですよ!」

私はいつだって人生を楽しんでいる。割と楽観的な性格してるしね。

「楽しくないの?」
「いや、まあ、楽しくなくはないですけど…」
「ほら、素直じゃないじゃん。」
「うッ…」

言い返せない。新羅先輩って以外と人を巻くのが上手いんだね。臨也先輩ほどじゃないけどさ。

「臨也が好き?」
「嫌いではないです。」
「好き?」
「ああああ、もういいですよ。好きですよ!素直じゃなくて悪いですか?人間観察が趣味で変わった性格で、私のことが好きって言ってるくせに扱いは他と大して変わらない、口だけな先輩相手に素直にならないと駄目ですか!?」

新学期早々、吹っ切れた。先生が「早く体育館に行け〜」と注意しているのも、友達同士でのんびり歩きながらお喋りしてるのも、全部が遠くでガヤガヤ音をたてているように聞こえた。

「口だけってどういうこと?」
「それは…」

新羅先輩は怪訝そうに私の顔色を窺っている。意地悪だ。わかってるくせに。

「中学生の頃から、臨也先輩は『人間』が好きなんですよ。」
「それは僕も知ってる。」
「臨也先輩は、私が好きって訳じゃないんです。私が人間で、身近にいて観察しやすいから好きって言ってるんです。」

自分で言って悲しくなってきた。先輩が好きかもしれない、と思ったのはこの前の夏祭りの時が初めてで、それまでは意識していなかった…はず。先輩に『可愛い』と言われると恥ずかしくて、どうせ冗談だろうなぁと受け流そうとして、それでもちょっとだけ嬉しかった。
それは多分臨也先輩が好きだから。先輩が本当に私を好きでいてくれたのかはわからない。その可能性は薄いと思う。

「ふぅん。じゃあ頑張ってね。幼なじみとして応援するよ。」
「何をですか?」

新羅先輩は一瞬目を丸くしてからニッコリ笑顔になった。

「決まってるよ。臨也に好きになってもらえるように、でしょ。じゃあまたね〜」

今度は私が目を丸くした。そうだ、そうすればいいんだ!流石、片思い歴が長いだけあって新羅先輩は頼りになるね!あれ?片思いが長いってことは成功してないってことだよね。頼りになるの…?

「鈴木、遅れるぞ。」
「あ、はい!」

先生に注意されて時計を見ると、時間はギリギリだった。ダッシュで駆け出して、今度は「走るな」と怒られた。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ