school life
□第15話
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12月初旬
人通りの多いグリーン大通り。制服姿の学生がわんさか歩いている。吐息はみんな真っ白で、マフラーをしていないと寒くて凍えてしまいそう。
「24日が何の日か知ってる?」
帰り道で突然そんなこと聞かれた。
「………………」
「あれ?佳奈ちゃーん」
「馬鹿にしないで下さい!!太ったヒゲのおじさんが夜な夜な子供の部屋に忍び込んでプレゼントを置いて帰る日ですよ!翌日はクリスマスです!」
私がそう答えると先輩は、お腹を抱えて笑い出した。
「ハハッ、何その解説!サンタが犯罪者みたいじゃん!」
「不法侵入って犯罪ですよね。まあ、サンタさんの場合は伝説なので気にしなくていいですけど」
「あれ?意外と現実的なんだ?」
「先輩にはもっと現実を見て欲しいですね。なんでこんなに寒いのにマフラーも手袋もしていないんですか!?見てるこっちが寒いですよ!」
「へーぇ、俺が風邪引かないように心配してくれてるんだ」
先輩は驚いた顔をしている。失礼だよね、ホント。私はそこまで冷徹じゃないってば。
「…まあ、少しは。」
先輩はちょっと考えてから、ニコニコしだした。薄気味悪い。
「でも、佳奈ちゃんが温めてくれるから大丈夫だよ」
「私は何もしてないです」
街を歩くカップルはみんな腕を組んだり手を繋いだりしている。私も手ぐらいは繋いだほうがいいかもしれない。ぼけーっと周りを見回していると、先輩が急に笑い出した。
「うんうん、やっぱり色んなタイプの人間がいるっていうのは面白いことだよ!ははははっ!」
人通りが多い、というより混雑しているからか、思考がぶっ飛んだらしい。先輩が『人らーぶ』とか何とか言い出す前に何とかしなきゃ。私は頭のネジが取れたらしい先輩の顔をぺちぺちと叩いた。
「先輩、そろそろ戻ってきて下さい。」
「ん?あ、ゴメン。俺ってばうっかりさん!」
先輩は、てへ、と自分の頭を叩いた。数秒の空白。私の頭の中は真っ白だ。
「病院!病院が来て下さい!誰か助けて」
「落ち着いて、佳奈ちゃん。大丈夫だから。それ以上騒ぐと俺が周りの人に変なヤツって思われるから。」
先輩は自分が変なヤツって自覚してないの?それは尚更大変なことだ。
「どこが大丈夫なんですか!」
「で、24日なんだけどさ、」
またしても会話になっていない。先輩はマイペースすぎるというか、人の話を聞いていないというか、自分勝手というか、
「イライラしながら俺のあら捜しするのやめてよ」
「あれ?口に出てましたか?」
私ってばうっかりさん。
「いや、無言だったよ。ああ、本当にあら捜ししてたってことか」
「で、24日が何ですか?」
拗ねる前の対処方は勝手に身についていた。先輩は拗ねると面倒臭いからね。
「デートしようよ。予定は空いてるよね。」
「で、でーとですか。クリスマスイブにでーとですか。」
「え?普通でしょ?」
「そうですね…」
先輩にとっては普通なのかもしれないけど、何と言うか、
「特別な日に先輩と一緒にいられるのがうれしいんです。」
先輩はまた固まってしまった。変なこと言っちゃったかな?
「せんぱーい?」
よく見ると先輩の顔が赤い。照れてる?さっきまで壊れてたから、調子がおかしくなっちゃったのかもしれない。
「臨也先輩!」
少し背伸びをして、先輩の耳元で呼びかけてみた。
「佳奈ちゃん…誘ってるよね」
「え?先に誘って下さったのは先輩ですよ?」
「もうダメ。我慢できない」
…何が?怪しい怪しい。
「ひゃッ」
「佳奈ラブ!俺は佳奈が大好きだ!」
急に抱き着かれた。
「よし、クリスマスイブは朝から朝まで一緒だよ!」
「おかしいですよね。朝までって絶対おかしいですよね。」
朝に会っただけで帰っちゃうってこと?まあいいや、きっと先輩がハイテンションになって間違えただけだよ。というか、道のド真ん中で立ち止まるのってまずいよね。
「歩けないので離れて下さい」
「離すもんか!もっと俺を温めてよ。お持ち帰りけって〜い」
酔っぱらったおじさんじゃないんだから。というか、寒いならマフラーか手袋をしてほしい。もしかして、持ってない?
「世界堂で画材を買ってから帰るので、先輩の家までは行けません。歩けないので離れて下さい。」
「あ、そうなの?なら一緒に行こう!」
「……………」
先輩は本当に自分勝手だ。
「佳奈ちゃん?」
「……恥ずかしいので離れて下さい…。」
自分達の横を通り過ぎていく人達の視線に耐えられないよ。うわ、今すれ違った人『リア充爆発しろ』って言ったよ。怖い怖い。
「そっかぁ。じゃあこうしよう。」
先輩はようやく離れてくれた。で、私の手を握っている。これもこれで恥ずかしい。
「そうですね、これなら歩きやすいです。」
私まで頬が赤く染まってしまった。
「あ、今日は何買うの?」
「水彩色鉛筆です。先輩が一緒に来て下さるなら色選びが楽で助かります。」
「え?何で?」
「な、何でもないですっ!」
私達はそのまま手を繋いでいた。