school life

□第20話
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「しずお…くん……?」

静雄先輩は地面にたたき付けられてピクリとも動かなくなった。

「―――ッ!」

捻挫なんてお構いなしに走った。ズキズキと痛むのは足じゃない。不安が心を押し潰してしまいそうになった。短い距離のはずなのにやけに長く感じる。臨也先輩が小さく舌打ちしているのが聞こえた気がした。

「静雄先輩!起きて下さいよ!先輩!」

静雄先輩の横に膝からストンと座って、気絶したままの先輩の頬をペチペチと叩いた。車に撥ねられた人への対処ってこれでいいんだっけ…?

「救急車!今呼びますから!」

鞄から携帯電話を取り出すも、指先が震えてたった三つの数字もろくに打てない。しかも、こんな時に限って電池が切れた。昨日の夜に美桜といっぱいメールして、充電するのを忘れていたんだ。回りの人を見回しても誰もかもこっちを見て見ぬフリをしていて助けてくれそうにない。静雄先輩の鞄から勝手に携帯電話を取り出すも、撥ねられた時の衝撃で動かなくなってしまっていた。
ゾッと寒気がした。嫌だ、いなくなっちゃ嫌!でも自分には何もできなくて、涙目になって静雄先輩の名前を呼び続けた。
もしかしたら、静雄先輩なら…無傷なんじゃないの?だって、血の一滴も流れてないよ?

「静雄先輩…起きて下さいよ…」
「…ん」
「…!?」

起きた!先輩の生命力ハンパない!これはノミ蟲どころしゃなくて、G並だよ。おっと、今はそんなこと思ってる場合じゃなかった。

「先輩、大丈夫ですか?痛い所とか、頭がおかしいとか、ありますか?」
「おい、頭がおかしいって何だよ」
「良かった…本当に…」

ボロボロと涙がこぼれた。静雄先輩はむくりと上半身を起こして、大きな手で私の頭を撫でた。

「何泣いてんだよ」
「は?誰のせいだと思ってんですか?」
「臨也の奴のせいだろ」
「それもそうですけど…そうですけど!」

臨也先輩!忘れてた、私は先輩と一緒に帰りたくて待ってたんだ。言うのは恥ずかしかったから全然違うこと言ったけど。で、臨也先輩はどこに行ったんだろう?

「おい、帰るぞ」
「あ、はい」

立ち上がる先輩に合わせて私も立とうとした。だけど…

「大丈夫か?」
「あの…びっくりして腰が抜けちゃって…立てません…」
「ったく、しょうがねぇな」

静雄先輩は私に自分の鞄と私の鞄を押し付けた。何をするこのやろう、と思っていたら静雄先輩は私をひょいと抱え上げた。『ひょいと』って感じだけど丁寧に、慎重に、大切に扱ってくれているのはよく分かった。

「なんでお姫様抱っこなんですか?」
「お前今捻挫してんだろ?担ぐよりマシだろ」
「そうですね。で、どこに行くんですか?」
「お前を家まで送る」
「そうですか。ありがとうございます」

臨也先輩はどこかに行っちゃったからそれでいいや。歩かなくていいから楽チンだし。そもそも、臨也先輩を逆恨みする女子達に怪我させられて捻挫したのになんで臨也先輩は私より静雄先輩との喧嘩を優先したんだろう。まあ、先輩のせいで怪我したってわけではないけどさ。ちょっとは心配してくれてもいいのに。うーん、心配されてないわけじゃないけどこの仕打ちは酷いよ。

「…殺気がすげえぞ」
「だって…いえ、すみません」
「どうせノミ蟲のせいだろ?お前送った後殺しに…いや、ぶん殴りに行くから大人しくしてろ」
「はい」

静雄先輩は何故かギョッと驚いて私を見た。私の顔に何かついてたの?

「どうしたんですか?」
「いや、いつもは手加減しろって言ってたからよ」
「今日は手加減無用でいいんじゃないですか?」
「…そうか。じゃあ、ぼっこぼこにしてやるよ」
「どうぞご自由にー」
「佳奈、お前実はもう立てるだろ」
「そんなことないですよ。静雄先輩のせいで腰抜けたんで、ちゃんと送って下さい」
「俺のせいかよ」

本当はもう歩けるけど、静雄先輩は疲れてなさそうだからこのまま楽に帰っていいや。
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