長編夢

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門田達ダラーズ組と千景達To羅丸組が解散してから姫香が一人で左手の指がきちんと動くことを再確認していると、杏里が駆けてきた。

「姫香さん!」
「杏里・ザ・マイハニー!どうしたの、そんなに焦って。私の怪我を心配してくれたの?ありがとう!流石杏里!優しいね!おかげで怪我の痛みが」
「心配は勿論してるんですけど…帝人君が、見当たらないんです…」
「あ。帝人君か。そういえば…いないね。ま、帝人君の事だから平気なんじゃない?」

心配そうに辺りを見回してはいるが妙にサッパリしている姫香に、杏里は首を傾げた。

「あの…」
「あ!私今ケータイ持ってないんだ。杏里の貸してもらえる?仕事でセルティに電話しなきゃいけないんだよね…」
「あ、はい」

セルティと聞いて安心したのか、杏里はすぐに電話を差し出した。

「ごめんね、図々しくて。」
「いえ、これくらい平気ですよ」

杏里の微笑みにハートを打ち抜かれた姫香は咳ばらいをしてから電話をかけた。

「もしもーし。浅木姫香です。お久しぶり。」
『(――ガシャ)』

動揺したセルティはPDAを落としてしまったらしい。その後、拾った合図が聞こえた。

「いつから帰ってたんだ!?って聞きたいかもしれないけど、詳しくは後でね。それより、アカネって女の子は無事?あ、無事だったらコンコンってして。」

すぐに合図が聞こえた。とある少女――粟楠茜は無事だったらしい。

「ありがとう、じゃあまた後で新羅の家に行くね!」

セルティはまだ何か伝えようとしていたが、無視して電話を切ってしまった。
杏里はまだ帝人が気にかかるようで、キョロキョロと周りを見ている。

「電話ありがとう。家まで送りたいんだけど、これからまた用事があって無理だから気をつけて帰ってね。」
「あの、姫香さん…」
「ん?」

杏里は一瞬俯いてから姫香の目を見据えた。またしてもハートを打ち抜かれた姫香は杏里に気付かれない程度に深呼吸した。

「何か、隠してませんか…?」
「うん。」

申し訳なさそうに聞いた杏里だったが、姫香は即答した。

「隠し事してばかりでごめん。今は私から話せることはあんまりないけど、いつか…その、色々と話すよ。約束する。」
「はい…あ、あの、私で良ければいつでも相談に乗るので、一人でなんでも抱え込まないで下さい。」
「杏里…」

いつもよりずっと力のある言葉に拍子抜けしてしまった。

――相談、か。前にも同じこと言われたなぁ〜。でも今帝人君の居場所教えるのはマズいよね。多分、今頃帝人君はろっちーにグサグサ言われてる。

「ありがとう。じゃあ、気をつけてね。」
「はい、姫香さんもお大事に。」
「うん、またね〜」

杏里の背中が見えなくなるまでヒラヒラと手を振って見送った。

――さて、と。茜ちゃんの方は何とかなったみたいだし、正臣探しの時間だね。

「ばいばい」

暫くぶりに会う(予定の)友人の顔を思い浮かべ、誰もいない路地に向かって呟いた。
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