アイリス
□三章 行動
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「カーライゼル邸ってどこなの?」
「君、かわうぃーね」
「綺麗な髪ですこと〜!」
「どうやってお手入れされてますの?」
「君、かわうぃーね!」
「パーティではあんまり見ないよね」
「君、かわうぃーね!!」
「人混み嫌いなんですの?」
「じゃあ、僕が優しくエスコートするよ」「君、かわうぃーねっ☆」
「「「美しいですわ〜っ/可愛いーっ」」」
あれから時は過ぎ、授業が終わった。
ユキが真っ先にエリオットにお礼を言いに行こうと席を立つと、勢いよくクラス中の男女がユキの席の周りに集まり…
今に至る。
質問攻めにされても尚、笑顔で答え続けるユキを見て、エリオットは数分前にリーオと教室を出ていった。
『あは…いや違った、お、おほほ…』
笑い方までも慣れないお嬢様に合わせていたが、さすがに疲れたユキは、御手洗いに行くと皆に告げて、エリオット達が去っていった方向に走り出した。
******
「苛々しないでよエリオットー」
「してねえよっ!!」
横で歩いているリーオが意味の分からないことを言ってくる。
オレは苛々なんかしてねえ!
「じゃあさ、その黒いオーラを放ち続けるのやめてくれないー?」
「…。」
苛々はしてねえ。
だがモヤモヤするだけだ。
このモヤモヤした気持ちは、あいつが教室に入ってきてから続いている。
あいつが自分で入ってきた時は驚いた。
周りの奴らもさっきまでの態度をひっくり返していたし。
確かに、あいつが入ってくる様は綺麗で、息を飲んだ。
というより、あいつは黙っとけば誰もが認める美少女なんだが。
授業が終わってからはムカムカが更に大きくなった。
周りの奴らはあいつに寄ってたかり、人だかりができていた。
オレが話しかけようとしても、奴らが邪魔で話しかけられなかった。
だからリーオを連れて教室を出た。
「あー苛つく」
「今認めたよね」
何なんだ奴ら。
あいつをよく知りもしねえでヘラヘラしやがって。
あいつの本性も知らねえくせに。
「…ミス・カーライゼルも人前だと緊張するのかなー」
苛々しながら廊下を歩いてると、さっきから横でブツブツ呟いていたリーオの声が、ふと耳に入った。
「人見知りしなさそうに見えるのにねー」
動いていた目の前の景色が止まる。
そしてオレは、拳を握りしめて自分を嘲笑った。
…あいつの本性って何だ。
オレがあいつの何を知っている?
昨日出会ったばかりじゃねえか。
オレはあいつのことを何も知らねえ。
「…っ」
知りたい。
そう思ったら自然に体が動いていた。
「あれーエリオットどこ行くの?」
リーオの声も無視して、廊下を全力で走り出す。途中、何度も人にぶつかった。
よく考えればオレはあいつの名前も知らねえ。教師の話なんて聞いていなかった。
カーライゼル
それしか知らない。
それじゃオレの周りの奴らと一緒じゃねえか。
周りの奴らは"エリオット"じゃなくて"ナイトレイ"ばかり見てくる。
でもあいつは…
そうだ、あいつはただ1人、外部の人間でオレに向かってきた人間だ。
あいつは違う。あいつだけは違うんだ…
『…ミスター・ナイトレイ?』
「カーライゼル…」