アイリス
□三章 行動
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腹から絞り出したような彼の声で教室がシン…と静まり返る。
「オレは陰口が大嫌いなんだよ…文句あんなら正々堂々言えば良いじゃねえか」
「まーまーエリオット」
怒りのスイッチが入ったエリオットを、リーオが止めに入るが
「うるせえ、だまれリーオ!!」
やはり無理みたいだ。
リーオは横で、だめだこりゃ、と首をすくめた。
「陰でコソコソ言うことの何が楽しいか!!卑怯な臆病者共め…恥を知れ!!」
生徒は怯え、先生はぽかん、と彼をただ見つめている。
『…エリ…オット…?』
ユキは、ドア越しに聞こえたエリオットという名を反復した。
そして、昨日逢った彼だと気づけば、彼の次の言葉を瞳を閉じて待った。
「それに転校生!!おまえも早く入ってきて何か言え!入ってこないから誤解されんだよ!」
『…っ』
ユキに向いた言葉に驚きながらも瞳を閉じて受け止める。
「おまえが言わなきゃオレ達には何も聞こえねえ!おまえが動かなきゃオレ達は何も分からねえ!」
頭の中にスッ…と入って染み込んでいく。
そんな声だった。
「行動しねえと何も変わらな…」
ガラッ
何故動いたかは分からない。
彼の言葉がそうしたのだろう。
ユキは教室のドアを開け、突き進んでいた。
茶色く艶やかな髪を翻し、澄んだ蒼の瞳に意志を灯して、長くて白い足で教室の中央に進んでくる。
教室中は、先ほどのざわめきとは違った雰囲気のざわめきに包まれた。
『今日から此処ラトヴィッジ校にお世話になります』
可愛らしい、でもどこか凛とした声。
『ユキ=カーライゼルです』
彼女が言い終わってお辞儀をすると、どこからか拍手が上がり、最後はみんな手を叩いてよろしく、だの、可愛い、だの声をあげていた。
エリオットは少し驚いていたが、すぐに優しく微笑んだ。
そんな主を笑いながら見つめる従者。
「え、えぇ、よろしくねミス・カーライゼル貴方の席は…」
ミス・ダリアンがユキの席を思案していると、エリオットとリーオを除くクラス中の男子がキリッと姿勢を正したのに、女子は苛つきを覚えたのだった。
「ミスター・ナイトレイの横ね」
本当に婚姻の話はバレてないのだろうか、とユキは心配になったが、先生の言葉に返事をしてエリオットの隣の席についた。
『よろしくね』
ユキが小さく声を掛けるとエリオットは、ぶっきらぼうに、ああ、と呟くように言った。
「では、次の授業にうつるが―…」
ユキの紹介も終わり、先生はどこか疲れたように話し出した。
『…あと、さっきはありがと』
「オレは何もしてねえよ」
嫌なヤツなんて思ってたけど本当は優しいんだな、とユキは再確認したのだった。