アイリス
□三章 行動
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「おまえの名前なんて言うんだ?」
『ユキ』
「ユキ…か」
エリオットとユキは、走っていたお互いを見つけ、二人は今、図書室の隅で話している。
『貴方はエリオットでしょ?』
彼女に名前を呼ばれるとドクン、とエリオットの心臓が小さく跳ねた。
「ああ、エリオットでいい」
『そのつもり』
ユキはニッコリと微笑む。
それを見て、またエリオットの頬が赤く染まった。
『あ、私もユキでいいよ?』
「ああ」
エリオットが返事をして、他愛のない話をしていく。
『昨日、あれから寝れた?』
「まあな。おまえと話して疲れたから」
『私もエリオットと話して疲れたからよく眠れすぎて遅刻しそうになった』
「初日にか。つーかオレのせいかよ」
エリオットがハハッと笑う。
そして暫くの沈黙。
昨日はあれだけ騒いだのに、変な所で遠慮と緊張をしている二人。
エリオットは外を見つめ、ユキは前を向いて何か考えていた。
『許嫁ってさ…初めて聞いた時、どんな人なのかなって思った』
「…?」
ようやくユキが口を開いた。
その横顔は息をするのを忘れるほど綺麗であった。
エリオットはユキの言っている意味が解らないようだ。
『絶対、エリオット=ナイトレイは変な人だと思ってた』
「なんでだ!!!」
すかさずツッコミを入れるエリオット。
それを見てユキが面白そうに笑う。
そしてまた真剣な顔に戻り言葉を続けた。
『でもね、逢って話してみたら本当に…不器用なだけの優しくて良い人だった』
「…」
何故かユキの言葉には確信の意がこもっていた。
それはそうだろう。
エリオットの言葉によってユキは前に進めたのだから。
『私は許嫁って言われても好きじゃない人と結婚なんてしたくない…』
「…」
それを聞いてエリオットは顔を歪め、ユキも俯く。
16の男女に許嫁なんて重すぎたのだ。
その雰囲気を振り払うようにユキは前を向いて再び話し出した。
『だけど、まだ知ってもいない人を好きじゃないって決めつけたくないの』
エリオットが驚いて見つめたユキの横顔には意志が灯っていた。
「…そうだな」
二人は顔を見合わせて笑った。
その光景は端から見れば、将来を約束したカップルにしか見えなかっただろう。
『だからエリオット、私達は許嫁って言っても形だけなんだし…友達になろう?』
「…ああ」
エリオットは少しぽかん、としていたが、すぐに笑って返事をした。
『…そして、お互いのこと知っていこうね』
ユキはそう言って笑いながら瞳を閉じた。
エリオットはと言うと、何か一生懸命に口を開け閉めさせて、伝えようとしている。
「…お、オレも……ユキのことを…もっと…」
『…くかぁ〜…』
そしてエリオットが意を決して口を開いた時は既に―
「……って寝るなあ!!」
ユキは寝ていた。
『…むぅ…』
「っ!!?」
この短い時間は、お互いに"嫌なヤツ"から"友達"へ進むことのできた大切な時間となったのだった。
そしてエリオットにとっては緊張しっぱなしで疲れ過ぎた時間だったらしい。
何しろ眠った彼女が自分の肩に寄りかかってきたのだから。
その後エリオットがユキを女子寮まで、俗に言う"お姫様抱っこ"で送り、学校中の噂となったらしい。
『な、何でこうなってるのよ!!』
「おまえが寝るからだろう!?」
『ち、違いますって!皆さん違います!!』「諦めろ」
『嫌だ!!皆さん信じて―…』
「バカだな」