アイリス
□四章 好意
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「え、名前何て言うの!?」
「…………」
「あははー」
ルークの言葉に教室中がざわめいた。
女子に至っては、悲鳴さえ聞こえてきた。
エリオットは無言でルークを睨み、リーオとジュリアは何だか面白そうに見つめている。
そして、質問を投げられた当の本人は
『…………え』
耳まで全て真っ赤にして、ただ間抜けな声を上げていた。
可愛い、と言われてこの反応。
おそらく、言われたことが無かったのだろう。
当然、彼女の容姿は相当な可愛さだ。
だが彼女自身には、美少女であるという自覚は無い。
それもそのはず、彼女の住む田舎の屋敷には人は少なく、その上、彼女の父は位の高い貴族にしては珍しい宴嫌いな人だったため、ユキはパーティ等に出席したことが今までで一度しかない。
それも、四大公爵家嫡子の成人の儀という重要な場だけだ。
パーティ等に出席さえしていれば、可愛い等の誉め言葉や口説き文句は言われ慣れていたに違いない。
だが言われたことは皆無だった。
故に今、真っ赤なのだ。
「…やっべ…可愛い…!!」
『は、はぁっ!?やめてよ冗談っ!』
ルークはさっきまでの無邪気な笑顔から一変して、ほんのり顔を赤らめユキを見つめていた。
「あれ、彼ほんとに惚れちゃったみたいだよー?エリオットー」
「うるせえ!!オレに関係ねえだろ!!」
「ドラマみたいな展開よね〜ベタすぎって言うか〜…」
さっきまでルークの言葉に固まっていたクラスメイトも茶々を入れだした。
二人は対面して、顔を真っ赤にしている。
何この人!?
面と向かって可愛いなんて…!?
あ、そーよ、この人たらしなんだった。
みんなにもこういう事言うのよね、危ない騙されるところだったわ。
「………ミスター・ラインダース」
「俺、ルーク=ラインダース!」
『…あ、私はユキ=カーライゼル』
「………おいラインダース」
「…はは、悪い、さっきはいきなり…でもユキが可愛すぎてついっ!」
『…あはは(惑わされるな私ッ!!)』
「「………ミスター・ラインダース」」
「でも…転校生がこんなに可愛いなんてさビックリするよなーユキの反応も可愛すぎて、俺好きになっちゃいー…」
「「ラインダース!!」」
エリオットとミス・ダリアン先生の大声が教室中に広がる。
ダリアン先生は、溜まりたまった彼に対しての怒りから。
エリオットは、言い知れぬムカつきから。
「黙って聞いときゃ歯の浮く台詞ばっか並べやがって!!おまえはホストか!!」
「お、エリオットじゃん」
「オレの名を気安く呼ぶなルーク=ラインダース!!それに何どさくさ紛れてユキの肩抱いてんだ!!」
『え、エリオット…』
「良いじゃん、俺、ユキの事好きだからっ」
「ふざけるな!!好きだからって―…っ!!」
そこでエリオットの言葉と動きが止まる。
好きだからって
俺、ユキの事好きだから
「「「「「「『………』」」」」」」
グラス中の全員が黙り、先程のルークの言葉を頭の中で繰り返す。
「「「「「『ええーっ!?』」」」」」」
「あ、俺、今日からユキの事好きだからっ!よろしく〜」
ルークは軽く片手を上げて、皆に盛大に告げた。
つまりこれは―
『ちょちょ、ちょっと!待ってルーク!!来なさい!!』
「おっ?」
皆の前での公開告白。
そう感じとったユキは恥ずかしさと驚きにより居た堪れなくなり、ルークの手を咄嗟に掴み、教室を足早に出ていった。
「「「「「「……………。」」」」」」
残された教室の人は。
「すごいね彼〜」
「何が彼をあんなに積極的にさせたのか興味があるなー」
ジュリアは面白そうに、リーオは感心した眼差しで。
クラスの男子はまだボーッとして。
クラスの女子は眼光を光らせ、嫉妬から来る黒いオーラを体中から放ちながら。
ミス・ダリアンは疲れきって。
ミスター・エリオット=ナイトレイは
「………………………チッ」
この上なく不機嫌そうに、どす黒いオーラを放ちながら
二人の出ていった扉を見つめていた。