アイリス

□四章 好意
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『………で?何がしたいんですか?』

「えー?」

教室から彼を引っ張って走ってきた私は、図書室に来て彼を問い詰めていた。

『だからっ!!何で!あんなこと言ったんですか!!』

初対面の人に対してのいきなりの告白。
いくら遊び人だからといって、それは私もどうかと思う。

彼―…ルークはその質問には暫く答えず、私に背を向けて近くにあった本を開いては閉じ、開いては閉じと、遊んでいた。

『…私、そういう女じゃないから』

「え?」

ふと浮かんできた考え。

彼は、新しく入ってきた私に興味を示し、遊んでやろうと思っているんだ。

だから

『私!遊ばれるような女じゃないから!!』

言った。言ってやった。

ルークは本を開いたまま、ピクリとも動かない。

『私で遊ぼうなんて考えてるなら他を当たってよろしくやってくださ―「俺さ」

『…?』

今まで背を向けていた彼は、私の声を遮って私と向き合った。
手元には閉じられた本。

「俺さ…そんな風に見えた?」

そう言って自嘲気味に笑った彼はとても…

寂しそうだった。

さっきも思ったこと。
彼が女の子と遊んでいるというのは―…

寂しいからじゃないかって。

でも…

『うん』

即答。

だって、会ったばかりの人を好きになってその上、公開告白。

そりゃ"そんな風"に見えるでしょ。

「ははっ、ひっでえなぁ」

…そう思いたかった。

だけど、さっき見せた悲しそうな笑い顔が頭から離れなくて、どんな人なんだろうって思ってしまった。

悲しいことがあるなら、私が聞いて傍にいてあげたいって思ってしまう。

多分、彼が女の子に囲まれるのも、それが原因なのが大きいんだろうな。

『…寂しい、の?』

「…え?」

『寂しいから、でしょ?』

私がそう言った瞬間、ルークは今にも泣き出しそうな顔をした。

それを見たら、胸がキュッと締め付けられるような気がした。

ただの遊び人じゃないんだろうな。

けどすぐに、さっきまで皆に向けていたのと変わらない笑顔に戻る。

「はは、俺そんなやわな奴じゃないよ」

『嘘。寂しいって顔に書いてある』

「…」

『貴方にどんなことがあったか知らないけど、寂しいからって女の子に手を出すのは駄目だよ』

何だか偉そうかな、そう思って彼を見上げると、彼は困ったように苦しそうな笑みを浮かべていた。

「…悪い」

『え?』
私の言葉を顔をしかめて聞いていたルークは、悪戯っぽい笑みを浮かべて、そう言った。

「俺、最近悲しいことあってさー…女の子に逃げてたんだよね〜」

『…』

あくまでも、軽く。
へらっと笑いながら。

「やっぱ迷惑だった?悪い!」

『…迷惑じゃ、ないけど』

隠された。
本当の表情を。

そんな気がして、無愛想に答えた。

「そっか、悪いな!」

ルークはもう一度謝ると、もう帰んないとな、と呟いて図書室を出ようとする。

人の気持ちにズカズカと入っていって良いというわけじゃない。
何回か私の教育係の人に言われたし、私だって、そうされたら嫌だ。
だからしない。

だけど、彼は笑顔という壁で侵入者を拒むものの、寂しそうな顔をして待ってる。

自分の心を開いてくれる誰かを。

抜け出して来たんだから、もう帰らないといけない。だけど…

『…悲しいことあったなら、寄りかかっていいと思うよ』

「え?」

寂しそうな彼に、言いたかった。
まだ本心を見せない彼に、言いたかった。

『ルークには、男友達も女の子もたくさんいるみたいだし、そんな人達に寄りかかってもいいと思う。ルークを大切に思ってる人はたくさんいるから』

一人じゃないってこと。

うまく言えないけど、寂しそうなルークに独りじゃないって言いたかった。

ルークは暫く驚いたような表情を浮かべていたけど、くしゃっと笑って答えた。

きっと、今のは本当の表情なんだろう。

「…うん」

きっと、寂しがり屋なだけで、遊び人なんかじゃないんだと思う。

だって遊び人なら、こんなに寂しくて優しい笑い方しない。

あ、言い忘れた。

『私も、いるからね』

私が言うと、ルークは暫く固まっていた。

え、何その反応。
恥ずかしいんだけど。

「…ありがとう」

ルークはやっと口を開いて笑った。

嬉しそうな、屈託のない笑顔で。


『じゃ、私先帰ってるね!』


******


ユキの居なくなった図書室。
ルークは一人で壁に寄りかかっていた。

「してやられた…ユキ=カーライゼル…返り討ちだな」

そう呟いて、ふっと笑い図書室を出ようと扉に手を掛ける。

と、扉が突然開いた。
ルークではない。
まだ力を込めてないのだから。

扉の先にいたのは

「…エリオットじゃん」

「オレの名を気安く呼ぶな」

不機嫌そのもののエリオット=ナイトレイだった。
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