アイリス
□二章 級友
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エリオットとユキが素敵な出逢いをした日の夕方。
ユキは先生に連れられ、女子寮の見学に来ていた。
学校に行くのは明日からだけど、父の都合により、一日早く寮に入るらしい。
だから見学、というより、ユキは今日から寮生活になるのだけど。
『ふわ〜…すごーい…』
ユキは感嘆の声を上げた。
何しろ、このラトヴィッジ校の寮は…
というか、ラトヴィッジ校全体なのだけれど、行く所々で驚かされる。
その構造や装飾、全てに感嘆の声をあげなければいけない。
「素晴らしい寮でございますでしょ?」
私が作ったのよ、と言わんばかりに自慢をしてくるのは、異国語の教師、ローザンヌ先生。
白に近い金髪を団子に束ね、茶色い瞳にはピンクの眼鏡をかけている年配の…
つまり、お婆ちゃん先生だ。
今、ギロリと睨まれたのは気のせいだろうか。
エリオット達と出会って、暫く放心状態でいたユキを見つけ、ここまで引っ張ってきてくれた。
寮の部屋割りの案内をしてくれるらしい。
それはありがたいが…
さっきからずっと、寮の造りの話や、装飾や歴史の話など、よくも話が尽きないものだ、とうんざりするほど喋り続けていた。
『あの…先生』
「―でして…はい、何かおっしゃった?」
我を忘れて喋り続ける先生を放っておけばこのままずっと聞かされなければならないと察知したユキは、先生に恐る恐る声を掛けた。
『私の部屋は…?』
ユキが尋ねると、ローザンヌ先生は、いかにも忘れていたというような顔で
「…あぁ!はい、覚えてるザマス。着いてきてくださいませ」
と言ってきた。
この人が"眼鏡ザマス"なんて生徒の間で囁かれている理由を垣間見た気がした。
そう思っていると、先生がどんどん先に行ってしまうので、慌てて後を追いかける。
ルームメイトは誰なんだろう?
そう思った。
父に半ば無理矢理入学させられたラトヴィッジ校でも、入るんだったら友達をたくさん作って、楽しく過ごす方がいい。
だから、ルームメイトも大切だ。
「ここザマス」
そう思いながら歩いていると、ローザンヌ先生がタイミングよく止まって言った。
『わー…!』
自分の部屋の扉を前にユキの胸は高鳴る。
「貴方は従者もつけてないようですし、一人部屋ザマスよ」
ローザンヌ先生の言う通りユキは、カーライゼルという位の高い貴族の娘だというのに、は従者をつけていない。
何故か。色々理由があるようだ。
『え』
「どうかしたザマス?」
『一人部屋…ですか』
ユキは消え入りそうな声をあげる。
一人部屋が与えられるということは、ある意味凄いことだ。
位が高い貴族ほど一人部屋が与えられる。
だけど、ユキにとって、一人部屋は孤独に過ぎない怖いだけの部屋なのだ。
ユキは幼い頃から暗闇や一人が怖い。
独りな気がして、闇の中で誰にも見つけてもらえないような気がして。
「一人部屋が嫌ですって?贅沢な人ザマス」
『すいません…』
「きゃーっ!」
ユキが肩を竦めて謝った時―
後方から、聞き覚えのある女の子の悲鳴とも言えない間抜けな声が聞こえてきた。