アイリス

□四章 好意
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「ちょっと待ってストーップ!」

順調に送るユキの学校生活二日目。

朝のHRを始めようと、担任のミス・ダリアンが朝礼を促そうとしたその時―

一人の少年がガラッと五月蝿い音を出しながら教室の扉を開け、勢い良く飛び込んできた。

と同時に男子の笑い声と女子の歓声が上がる。

「「きゃー!ルークッ!!」」

「「また遅刻かよルーク〜」」

ルークと呼ばれた少年は、へらっと笑い、軽く片手をあげた。

女子は未だに歓声の声をやめない。

まだ寝ぼけていたユキが何事かと、机に伏せていた顔を上げて見てみれば、彼は確かに、歓声が上がるほどの美少年であった。

赤みがかった茶髪は、ツンツンと立っていて、美しく引き込まれるような深紅の瞳にも届く長さ。
少しだけ日に焼けた肌に整った眉。
鼻筋が通った高い鼻、形の良い唇。
体つきも制服の上から見ても分かるほど、引き締まってスポーツマン体型。

一言で言えばかっこいい。

『あれ、あの人昨日は居なかったよね?』

だがユキは彼の容姿は全く気にせず後ろの席のジュリアに小声で話しかける。

ユキ曰く、ルークよりエリオット好みだからあまり興味はなかったらし―『誰が言うかッッ!!』

「彼ね、人気だよお〜!性格も明るくて容姿もあんなんだから女子からも男子からも人気者で…確か、昨日は珍しく風邪で休み…だったかな〜」

ジュリアはユキの質問を聞くと、にこにこ微笑みながら答えた。

可愛い。

と思っていただろう。
彼女の本性を知るまでは。

そう思っていると、ジュリアはなぁに?と内に黒いものを潜めた笑みで笑った。

『…へー!王子様なんだ』

ユキが必死に話題を逸らす。

「うーん…まー、彼、たらし傾向あるからやめといた方がいいと思うよ〜」

『そんなこと言ってないっ!!』

ジュリアは先生に怒られているルークを見つめ、面白そうに笑った。
それにならい、ユキもルークを見つめる。

へー、たらしなんだー…
女の子で遊ぶとかいうやつかな?
まぁ確かにかっこいいし、女の子にモテモテなんだろうけど…
…なんか…

「あれぇ、見とれてる?」
『誰が見とれるかいっ!!』

そんなユキの思考も、ジュリアの言葉により遮られる。

ユキが再び見つめた先のルークは未だ先生に叱られながら、へらへら笑っていた。

『…彼、名前はー?』

「は、おまえ知らないのかっ?」

己の視力の悪さから、ユキが目を細めて(教壇からユキ達の机までは結構遠い)ルークを見つめ訊く。

すると、隣で何だか苛々しながら二人の会話を聞いていたエリオットがユキにつっかかった。

「そう言うエリオットも彼とあんまり仲良くないクセにー」
「うるせえ!!あいつは―…なんかムカつくんだよ!!」
「おー、野生の勘ってこの事かなー?」
「あ゙ぁ!?」

そこにリーオも後ろから入る。
確かにルークの女好きでいい加減な性格は、いつでも誠実なエリオットには気に入らないのかもしれない。

黙って見ていたユキに気づけば、エリオットは一度大きく咳払いをして、相変わらず無愛想に言った。

「おまえも貴族ならそんくらいは知っとけよな」

『え、有名な人?』

そんなエリオットの態度にも慣れたユキは気にせず思考を続けた。

ユキの記憶の中では、知らない人。
名前を聞けば分かるかもしれない(その可能性も極めて低い)が。

ユキがきょとん、として訊くとエリオットは呆れたように項垂れ、大丈夫かこいつ…と小さく呟いた。

『あーっ!!あんた今、大丈夫かこいつって言ったね!?最悪っ!』

「ハッ、本当のことだろう!?」

『レディには言って良いことと悪いことがあんのよ!』

「レディってどこだ!!」

『此処にいるじゃない!素敵なレディ(前回にならい、ぅるれぇででいーっと発音)がっ!!』

「笑わせるな、そんなことあるわけがないだろ」

…やっぱりエリオットの軽口と、ユキの頭の軽さは相性が良いみたい。

『むきーっ!!』

「しっ、ミス・カーライゼル…彼はね―」

「あっ!!あんたもしかして、転校生!?」
ユキが抗議の声を上げるが、無視をするエリオットの代わりに、彼の後ろの席のリーオが答えようとする。

だがリーオの言葉は、今まさに話題に上がっていたルークの言葉で掻き消された。

暫く固まっていたユキだったが、自分に向けられた言葉だと気づき、慌てて返答する。

「へっ?あ、うんハイ!!」

ユキ達がわいわい話しているうちに、もうルークは先生の説教から解放されたらしい。
ルークは自分の席に着くべく、歩き出したが、ユキを見つけて立ち止まった。

で、今に至る。

「えっ…か、か、か…」
『か?』

ルークはユキを前にして"か"を連発。
ユキは何が言いたいのか見当もつかず首を傾げている。
ジュリアとリーオは解ったらしく、何やら面白そうだ。
エリオットはユキと同じく解らないらしいが、ユキと違って勘が鋭いため、ルークの次の言葉を眉をしかめて待っている。
ミス・ダリアン先生はというと、先程あれだけ怒ったにも関わらず、まだ席につかないルークに、怒る気も失せて、ただ呆れて見つめているという状態だ。

それぞれが違う反応を見せる中、ルークは待望の次の言葉を放った。

「かっ…可愛いじゃんっ!!」

『「はいぃっ!?/はあぁっ!?」』
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