OP 長編

□my....@
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決して「王女様」というような女の子じゃなかったと思う。
おしとやかでもないし、か弱そうでもないし。
よく周りの人たちに怒られてたな。
高い花瓶を割ったり、イタズラしたり勝手に城を抜け出したり。
そんな女の子だった。



「ユヅキ様!またあなたは何て事してるのです‼」

ある王国の王女の世話役がヒステリックな声を上げた。
天気は晴れ。
街は今日もにぎやか、そしてこの城内もある意味にぎやかである。

世話役ーーソウに見上げられているのはこの国の王女ユヅキである。

「何ってソウ、見ればわかるじゃない。
屋根に登って日向ぼっこ」

「危ないじゃないですか!
早く降りて下さいケガでもされたらどうなさいますか!
私が怒られます‼」

「えー…ソウは怒られるのがイヤなのねー大人なのにねー私の心配はしてくれないのねー」

「もう、貴女って人は!心配に決まっているじゃないですか。
だから早く降りて下さい私の心臓がもちません。」

中年の男にそう言われ、黒髪の少女はにししと笑って屋根から降りた。


「ソウ!また稽古つけてくれる?」

「駄目ですよ、怒られます」

「ねぇーいいじゃない、お願い!
ソウ強いのにどうして才能の出し惜しみするのよー。
…ケチ‼」

「なっ!…まったく貴女には歯が立ちませんね…」

「やった!今日はどんなの教えてもらおうかなー」


ニカッと笑う姿はあまりにも楽しそうで、ソウはそれまでのイライラを忘れ、自分も微笑んだ。


ここは太陽と水に恵まれた国。
今は無き、ユヅキの故郷。






「お母様!」

「あらユヅキ。どうしたの?そんなに慌てて」

「今日ね、ソウに稽古つけてもらったの!
前よりも強くなったよ!
ソウにも褒めてもらった‼」

あれから数時間後、ソウに稽古をつけてもらったユヅキはこの国の王妃、つまりユヅキの母親であるハヅキのもとへ向かった。

一国の王女とは思えぬ擦り傷を沢山つくった顔にハヅキは苦笑いをこぼしながらユヅキが庭から勝手にとってきた向日葵を受けとる。

「じゃあ今度お母さんと手合わせしようか。」

その言葉に王女はわあ、と笑顔になり、世話役は顔を青くした。


「なにをおっしゃいますか王妃!
安静にしていて下さい。ご病気なんですから…」

「だーいじょうぶよソウ、私強いから」

あっはっはと此方も王妃とは思えぬ笑い方、そして理由になっていない返答をしたハヅキはわしわしとユヅキの頭を撫でた。

「ユヅキ、強くなりなさい。
王女だからといって城に閉じこもってるだけじゃ駄目よ。
いずれは貴女が国を守る立場になるの。
誰かを守りたいって思ったときに守る力がなくちゃ守れないでしょう?
愛する人を守るために強くなるのよ。

…だからソウ!この子に稽古つけてあげてね。」


ユヅキは、はい!と元気よく返事をし、ソウは溜息を一つもらした。


この国は太陽・水に恵まれており、国民たちは農業で生活をしていた。
印刷業など、金儲けになるような産業には恵まれていなかったが、決して不自由ではなく、国民たちは日々の暮らし、そして明るい王族が上にたつ国自体に満足していた。


そんな国のある日、ユヅキが14歳になった年、
彼女の人生を変えた事件が起きる。



「ソウ、今朝からお母様が見当たらないの。
部屋にも居ないし…何処か知ってる?」

「いえ、分かりませんね…
またあの方は…安静にしていて下さいという言葉が理解出来ないのでしょうかね。」


いつもお茶を飲みながら話をするのが2人の毎朝の日課であるが、
部屋に母親の姿が見当たらない。

すれ違う使用人たちに問いかけても皆そろって首を横に振る。
どうしたものかとソウに聞いたがソウも知らないらしい。

「向日葵とってきたのに…いつもより多めに…まあいいや、適当に走ってれば見つかるかー
ありがとうね、ソウ!探してくる!」

「(適当にって…)分かりました。くれぐれもお怪我はなさらないで下さいね。
そして庭の向日葵は勝手に取らない様に!」

「へいへい」




「(どこかなどこかなー…)」
片っ端から部屋も見てきたし、使用人にも聞いてきた。
しかし母親の行方は分からないままである。
かれこれ一時間以上は探しているが、依然として見つからない。

「(あとはー…あ!お父様の部屋だ!)」

まだ見ていない部屋があることに気付き、猛ダッシュでユヅキは父の部屋へと向かった。






ユヅキが父の部屋に着いたとき、中から言い争う声が聞こえてきた。


「…めて……さい!貴方は…こ…り……!?」
「う……い!…れは………だ!
……す…な‼」


ドアが分厚い為、何を言っているのかははっきりと理解する事は出来なかったが、確かに父と母の声がしている。

あの温厚な父親が物凄い剣幕で怒っていること、そしてそれを受けている母親も負けじと大声を張り上げている。

「どうしよう…入りづらいな…また後で来ればいいかな…いや、止めるべき?」

ユヅキがドアの前で迷い頭を抱えた瞬間、銃声が響いた。

勿論ユヅキの目の前の部屋から、である。


とっさにドアを開け、中に入ったユヅキは信じられない光景を目にした。



「お、かあ、様…?」


腹から血を流し倒れている母。
そして部屋の大きな窓ガラスが割られ、この国特有のからっとした爽やかな風が入って来ている。


…理解、できない、
どういうこと…?
どうしてお母様は倒れているわけ?
さっきの口論はなに?
確かに聞こえたのは父の声だった。
カッとなって殺した…?まさか、
どうしてお父様はいないの?


ぐるぐると巡る思考は答えを出すことは無い。

ユヅキの手から向日葵が落ちた。



 

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