薄桜鬼短編
□きみが愛しすぎるから
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※現パロ
「ねえ総司ー」
「んー…どうしたのー?」
日曜日の午後独特のゆったりとした空気の中。窓から射し込む光にはちみつ色に染め上げられたまことの髪の毛をゆっくりと梳きながら総司は眼を細める。
「なんでもないー」
ソファーの上で総司に膝枕されて仰向けに寝ているまことは、そんな総司にされるがままになりながらふにゃりと笑った。
「なにそれ」
不服そうに眉間にしわを寄せた総司にまことは楽しそうに笑うと右手を伸ばしてそのしわをなぞるように撫でる。
「そうじー」
今度は返事をせずに視線だけをを向けた総司に再び手を伸ばして頬に触れるまこと。そんな様子に困ったように笑うと、総司はまことの髪に差し込んでいた手を滑らせて毛先を指先で弄んだ。
きらきらと日差しを受けて光る毛先がくるくると踊ると、その影が映りこんでまことの色素の薄い茶色がちの瞳が気まぐれに色を変え時々金色に光る。
しばらくそのままでいると腕が疲れたのか、すっかり血の気のなくなった手を下ろしてまことは総司の腰に抱きついた。
「ほんとにどうしたの?今日はやたらと甘えたじゃない」
「んー…」
ぐりぐりと腹筋に額を押し付けながら何とも言えない声を出すまことを無理やり引き剥がすと、総司はまことを抱え上げて抱き寄せる。
「なにかあったの?」
総司が耳元でささやくとぴくりと肩をはねさせたまことが総司の肩に顔をうずめ、ぎゅうと音がしそうなくらいきつく抱きついてくるのに総司も同じようにまことの背に回した腕に力をこめた。
「あのね、総司」
「うん?」
「だいすき、だよ?」
疑問形で紡がれた愛の言葉はお互いの背に回された腕の力に反してひどく弱々しく、頼りない。
「急にどうしたの?」
「総司へのすきで頭がいっぱいでどうしようもないの」
なおも弱々しく言葉をつなぐまこと。
「だからね、今すごく幸せなのにすごく辛いの。もし総司が私のことを嫌いになったらとか、もし総司が明日いなくなったら、って考えちゃうの。そしたら胸がぎゅーってなって泣きたくなるの」
「まこと…」
言葉をなくす総司にまことは体の力を抜いて身体を預けた。お互いの呼吸と心音だけが2人の鼓膜を揺らす。
「…だったらさ」
先に口を開いたのは総司だった。
「もっと僕のことを好きになったらいいよ」
密着していた身体を離して総司はにやりと笑う。言葉の意味を飲み込みきれずにまことが首を傾げると総司の笑みが寂しげに歪む。
「そんなのじゃ足りないよ。もっともっと僕のことを好きになって、僕から離れられなくなって、そして…」
「そして?」
「今の僕と同じ気持ちを味わえばいいよ」
そう言って総司はまたまことを抱き寄せた。気がつくと柔らかく差し込んでいた日の光はすっかりなくなっていて、窓の外には夕闇が広がっていた。
さっきまで光を受けて輝いていた何もかもが色を失い寂しげに影を落とす中で2人はいつまでもそのままで動かない。
「このまま1つになれてしまえたらいいのに」
ぽつりとつぶやかれた言葉はそのまま闇に吸い込まれていった。
→あとがき