帝人受け

□警察よりも
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一回二回とコール音が鳴り三回目で相手が着信にでた。

「もしもし、静雄さん? 竜ヶ峰ですけど、実はですね……」
「し、シズちゃん!?」
「わかりました、ありがとうございます」

静雄に電話をかけ終わった後、少し焦っている臨也を見た。
うっすらと冷や汗をかいている。
どうやら余裕がなくなったようだ。

「いつの間にシズちゃんと連絡取る仲になったのかなぁ」
「それより、静雄さん近くにいたみたいでもうすぐ来てくれるそうですよ」
「またスルー? じゃあシズちゃんが来る前に俺は退散させてもら……」
「いーざーやぁ!!」

言葉を最後まで言い終わらない内に、外から静雄の声が聞こえた。
臨也は玄関から逃げ出ようとしていた。

「シズちゃん来るの早っ!! どんだけ近くにいたの!?」

ガチャと玄関のドアの開く音がして、静雄が現れた。
帝人を背にし、臨也の前に立ちはだかる。

「よぅ、ノミムシ。帝人に近づくなって言っただろ?」
「待って!! ここは君の大好きな帝人君のアパートなんだよ? 大家さんに怒られるのは帝人君だよ。ケンカする場所をわきまえな。
それにシズちゃんも帝人君を傷つけたくないよね、だからここは見逃してよ。じゃあね帝人君。また来るよ」
「おいっ!! 待ちやがれっ……」

そう言い残し、スラリと窓から逃げ去った。
帝人は追いかけようとした静雄を止めた。

「わりぃ。ノミムシの野郎逃がしちまった」
「もういいんですよ。それより、ありがとうございました」

帝人は優しく微笑みかける。
静雄はそれ以上は何も言えなかった。

「……また何かあったら電話してこいよ」

大きな手が小さな頭にポンッと軽くおかれた。
それから何事もなかったかのように立ち去った。
帝人は頭に残る温もりを感じながらも、少し寂しい気持ちになった。
気付くと自分もまた道路へと飛び出していた。
タバコを吹きながら先を行く静雄を慌てて呼び止めた。

「あ、あの!!」

静雄は立ち止まって振り返り優しい声で、どうしたんだ?と聞いた。
数秒間迷って、勇気を振り絞り、震える声を抑えながら言った。

「……な、何もなくても電話していいですか?」

少しの沈黙が長く感じられた。
静雄がポリポリと頬をかき、帝人にくるりと背を向けた。

「……いつでも、かけてきていいぞ」

じゃな、と手を振りながら、帰っていった。
帝人は見逃さなかった。
静雄の耳が夕日と同じくらい赤く染まっていた事に。

静雄さん、耳が赤くなってた……。

愛おしそうに、小さくなっていく静雄の後姿を、いつまでもいつまでも見続けた。

ーーそれなら今日の夜にでも電話しようかな。

今日の夕日はいつもより輝いてみえた。


-END-
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