帝人受け

□〜の壁崩壊
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リズミカルに動くシャーペンの音だけが教室に響いている。
他は、グラウンドから運動部の掛け声がわずかに聞こえるぐらいだ。

俺はシャーペンを置いて教室を見回した。
窓から差し込んだ西日が壁に反射し、教室全体を橙色に包み込んでいる。
眩しさのあまり目を細めた。それから、二つ分の伸びた影を目で追った。
俺の影から影へと―――そして、机を向かい合わせにし、目の前に座っている帝人先輩を見た。
俺の分からなかった問題の質問が終わり、教科書を広げて自分の宿題をやっている。
ものの見事に教室の色に溶け込んでいる。
先輩のうしろの黒板が反射して、いっそう同色に染め上げているように見えた。

「帝人先輩」
「なーに? 青葉君」
「いえ、呼んでみただけです」

言いたい事は別に無かった。
ただ呼んでみたかっただけだ。
結局は何も話さず取り繕う。
先輩は再びノートに目を向ける。

「先輩」
「ん?」
「今夜のダラーズは…「青葉君」
「学校ではその話……しちゃいけないって言ったよね?」

蒼い澄んだ瞳と目が合った。
その綺麗な瞳に惹き寄せられて、喉が詰まり言葉が出てこない。

「はい……」

返事をすると先輩は満足気に笑った。
俺も問題を解き始めた。
一見、優しい先輩と素直な後輩に見えるだろう。
水面下では俺らは利用されるか、するかの関係。
その関係に満足していない。

満たされない。
何かが物足りない。
足りない何かが……。
それは何なのか。

その『答え』を必死に考える。
試験のような方程式も文章もない。
ただあるのは漠然とした問題だけだ。
それを暗闇の中の手探り状態で『答え』を導き出そうと、足掻き、もがく。
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