帝人受け

□小さな画面、小さな鏡
1ページ/1ページ

「ねぇ帝人君。俺の話聞いてる?」
「聞いてますよ」

といいながら、テーブルを挟んで座っている彼と一向に目が合わない。
久しぶりに会う約束をしたからこうして喫茶店でお話でも、と思った。
けど、何なのさ。
帝人君はさっきから携帯と睨めっこしてて、俺の話を右から左へと受け流している。
一階の窓際で人通りがよく見える場所。
ブラインドを半分まで下げているとはいえ日差しが強い。
彼は工夫して携帯の画面が反射しないようにしている。
何だかなぁ……。
彼が頼んだアイスコーヒーは氷が溶けて水と珈琲に分離している。
それほど携帯に夢中になっている。

「携帯しながら言っても説得力ないよ」
「そうですね」

そうですね…って返答する気もないじゃん。
話をするときは相手の目を見なさい、って先生言ってなかった?
と言うと、あっメールだ、とか言いながらまた弄り出したし。
もう仕方がないから適当に話してよ。


「今日はいい天気だね」
「そうですね」

「アナログ放送終了したね」
「そうですね」

「学校楽しい?」
「そうですね」

「好きな食べ物は?」
「そうですね」

「テレフォンショッキングの観客なの?」
「そうですね」

「キスしてもいいよね?」
「嫌です」

「………」

そこ、即答……? はぁ。
『いいとも』って言ってくれたら飛びついてするのになぁ。
本当にショッキングだね。
聞き分けていた辺りが小生意気だ。
なおもリズムカルに動く彼の細い指を見つめた。
指細い……一生懸命な顔可愛いー……。
自分の想い人の瞳に映るのは小さな画面。
その画面の向こうには、深海のごとく深くて広い世界があることを俺も知っている。
だけど……。
人間は理想があってこそ行動が出来るのだが、現実がなければそれは成し得ない。
目の前の事も気にしてくれたっていいじゃないか……。

独占欲強すぎ、かな。
゛あれ″に嫉妬だなんて、
アホらしい、な。

余計な思考を切り離した。
だんだん惨めな思いになってきたからだ。
頬杖をつき、ガラス越しに街頭の行き交う人々を眺めた。
小さな溜息を漏らした。
そこで気づいた。
窓ガラスが反射しているからか、それが鏡になっていることに気がついた。

君が俺の事、見ていた。

小さな鏡を通して、

俺はそれに気づいた。

小さな画面は

彼の瞳を離して

大きな瞳は目の前の俺を捕らえてる。

俺が彼に目を向けると

赤面して慌てふためいて

再び小さな画面に目をやる君。

その顔を見ただけで、

嫉妬の炎は鎮火した。

嗚呼――

それだけで十分だ。



「俺の顔に何か付いてた?」
「い、いえ……ただ……」
「ただ……?」
「……格好良いなぁ……って思って……」


-END-

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ