帝人受け

□メール
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お盆なんで実家に帰ります。
しばらく静雄さんと会えないですね。
えぇ、寂しいです。
心配しなくても大丈夫ですよ。
少しの間ですし、
お土産買って帰りますから――


静雄は文面を眺めた後、折りたたみ式の携帯を閉じた。
そして、事務所から見える街を見下ろした。
見なれた街だが、いつもより雑然とした印象を与える。

ーーこの街に帝人がいねぇと考えるとやっぱり寂しいな。
自分の意思で一人暮らしを決めたからって、帝人はまだ高校生だし、こういう休みの日くらい家族と過ごしてほしい。

建物に囲まれて空は狭いが、帝人も同じ空を見ているに違いない。
静雄はおもむろに携帯を開き、たどたどしくメールを打ち始めた。

「おっ、静雄が珍しくメール打ってるんだな。誰、誰にだ?」

トムは静雄の後ろでちゃかした。
静雄の扱いに慣れているトムは、今の静雄は機嫌がいいと思い会話を試みた。

「恋人っす」
「恋人か! 静雄もやるねぇ」
「夏休みで実家帰ってるみたいなんすよ。心配しなくても大丈夫だって言ってるんすけど、さすがに心配で」

静雄がメールを打っている理由を知ったトムは感心した。
今までにメールを打っている静雄の姿を見たことがなかったからだ。
それほどまでに大切に思いやっているという証拠。
トムは、静雄に変化をもたらした名も知れぬ恋人に感謝した。
軽く握りしめていた携帯が震えた。どうやらメールが来たようだ。

「なんて書いてるんだ?」

トムは興味津々の様子でたずねた。
文面を聞かれたからといって怒らないと分かっているので、なおもちゃかし続ける。

『元気ですよ。
 静雄さんは?』

「えーと……返信は、と」

使い慣れていないメール機能に悪戦苦闘する。
濁音ってどうやるんだっけなーと慣れない手つきで打っていく。
こりゃ先が遠そうだ……と思いながら、温かく見守るトム。
ピッ、と送信ボタンを押して暫くしてから着信音が鳴った。

『おいしいお菓子でも買ってきますね。
 いつでもメールしていいですか?』

このやり取りはいつまでも続くと悟ったトムは静雄に言った。

「静雄。メールもいいけど、仕事はサボるなよ」


-END-
なぜ電話じゃなくてメールにしたのかは、頑張ってメールを打っているシズちゃんが可愛いなと思ったからです(笑)
携帯越しに幸せそうな顔してる帝人君も可愛い

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