帝人受け

□黒猫と帝人
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学校の帰り道、僕達は一匹の猫を見かけました。

「帝人帝人! 猫だ」
「えっ? 猫?」

正臣が指を差した方へ視線を変えた。
住宅街の電信柱から、ちょこんと顔を出している黒猫がいたのだ。
その何とも可愛らしい姿に正臣と顔を見合せた。

(行ってみっか)
(了解、正臣)

猫を驚かさないように足音を消して任務を遂行する。
昔、よくこうやって森とか冒険しに行ったなぁ。
あの時を思い出すようにドキドキした。

猫と触れる距離に届いた。
けれども黒猫は逃げる様子もなかった。
それどころか、たたっと自ら近寄ってきて正臣にダイブした!
その勢いで、正臣はどてっと尻餅をつく。
その上に黒猫が見事に座る。

「イテテッ……いきなり何だよ!!」
「あはは、いきなりなつかれたね」

綽然とした態度で座ってる黒猫。
すると、正臣のお腹の上からぴょこんと飛び下り、僕の足元にすりよってきた。

しゃがんで掌を見せると、ゴロゴロと喉を鳴らしながら、僕に頭を預けてくれる。
温かくてフワフワする頭を撫でた。
ツヤのある黒くて上品な毛並み。
しなやかな躯。
真ん丸い大きな瞳。
首輪はしてないけど人懐っこいから飼い猫なのかな?
首をこしょこしょすると、にゃーと鳴いた。
ものすごく可愛い。

「ねこーこっちにも来いよ」

体勢を立て直したらしく、正臣は胡座をかいていた。
正臣が手を伸ばして頭を撫でようとすると、ガブリと噛みついた。

「うおっ!?」

反応が速く、すぐに手を引っ込めたから噛まれなかったけど。
僕が頭を撫でようとしたら気持ち良さそうに鳴くのに。
正臣嫌われちゃったのかな。

「なぁ。この猫、臨也さんみたいだな」
「臨也さん?」

黒猫を見た。
動きを止めて円らな瞳をこちらを向けている。
確かに、黒いところとか予想できない行動とか似てるかも。

正臣が何処からともなく猫じゃらしを持ってきた。
なんで都合よく持ってたのか気になるけど……。
猫って本当に猫じゃらしでじゃれるのだろうか?
黒猫は上下左右に揺れる猫じゃらしを見つめる。
そして、勢いよく飛び付き猫パンチを繰り出した。
二人ではしゃいだ。わーとかすげーとか。
でもその猫の行動は可笑しかった。
一旦止まったり、退いたり、その度に正臣があの手この手で気を引くんだ。

「俺も猫と遊べたぞ」
「逆に遊ばれたんじゃないの?」
「くそぅ……。この黒猫、ますます臨也さんみたく思えてきたぜ」
「そうだね」

正臣が息を切らしてこんちくしょうって言ってた。
面白い。
僕は試しに臨也さんって呼んでみた。
猫が返事するわけないけど。

「にゃー」

返事したっ!
撫でながら僕は名も知らない猫に話しかけた。

「可愛いね」
「にゃー」
「綺麗だね」
「にゃー」
「臨也さんみたいだね」
「にゃおん」
「本当に可愛いね」

「にゃー」

「あはは、臨也さんにそっくりの声だね」

あれ?
今さっきの声、僕の耳元から聴こえたような……。
よくあるここで、ご本人さん登場とかいうオチ……。

振り替えると僕の肩近くに声の主がいた。
かなり近いっていうことにも驚いた。
紛れもなく正真正銘の臨也さんだったよ。

「本物の臨也だよ」

ニコリと笑って臨也さんがそう言った。


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