帝人受け

□相思狂愛
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ここは暗くて冷たい海の底。
瞼を開いても海面は見えなかった。
――四方八方暗闇で僕の創造した世界もまた暗闇で。


まだボンヤリとする意識を覚醒させた帝人。
まぶたを持ち上げても景色は変わらなかった。
どうやら柔らかい布で目隠しをされているらしく、外界との光を遮断されていた。
手を後ろに組まされ手錠をかけられている。
足は投げ出され、太ももにひんやりとしたコンクリートの冷たさが直に伝わった。
ズボンも下着も剥ぎ取られ、Tシャツ一枚だ。

後頭部に鈍痛がし、下半分しか認識されない顔を痛みで歪ませた。

湿っぽい部屋と先ほど意識が戻ったせいか、とめどなく汗が首筋を伝う。
べったりとシャツが体に張り付く。
帝人は早く帰ってシャワーを浴びたいと願った。

深く息を吸い込み、また吐き出す。
手が痺れてきた。
もう随分と水分を摂っていないような気がする。
喉が潤いを求めて少ししか出ない唾を飲み込んだ。

帝人は意識が遠退く前の記憶を辿っていた。
記憶はある人物に腕を引っ張られたところで止まっていた。

臨也さんに腕を引っ張られて、そのまま意識も引っ張られ、その後は……。
ああ、臨也さんにあいたいなぁ。

ということは十中八九、臨也がここに連れてきたのは分かる。
それならば、自分自身の命に危険は及ばないと考えていた。
僕に執着してる人が命までは取らない、と。
しかし同時に穏便に事は進まないことも覚悟していた。
普通の高校生とは積み重ねてきた経験が逸脱している帝人は、深海に沈められてもパニックに陥ることはなかった。
だが、逆にそれは周囲に波紋をもたらす。
この状況下で、不気味に口元にくっきりと下に弧を描かせるのだ。


暗闇に光が射し込んだ。
布越しでも分かった。
静寂の中、ゆっくり近付いてくる足音だけが響いた。
それは身動ぎ一つ出来ない帝人の前で止まった。

「帝人くん?」
「臨也さん」

目隠しをされていてもついつい声が聴こえた方へ顔を上げてしまう。
凛とした臨也の声だ。鼓動が早くなる。

「あぁ良かった。目を覚まさなかったらどうしようかと思ったよ」

臨也は帝人の前にしゃがみこみ、壊れ物でも扱うようにそっと優しく頬を愛撫した。
順に首筋、胸板、太股、足首、と触れられたところがわずかに熱を帯びる。
そして臨也は全身で帝人を抱き締めた。
臨也の匂いに安心感を得る。
まるで彼女に暴力を振るった後の男のように、優しく優しく……。

そんな臨也を視界にいれることすら出来ない帝人は恨めしく思った。
臨也が口を開いた。

「帝人くんは俺の愛を裏切った。なんで裏切ったの?こんなにも俺は帝人君のこと愛しているのに……」
「違ッ」

口から思わず否定の言葉が出た。
帝人は後悔した。
今言うべきは否定の言葉ではないと。
帝人に絡む腕の力が更に強くなる。

「違わない。全然違わない」

肩に顎を乗せ、耳元で囁かれる。
臨也はまったくもって無表情だ。
息が首筋にかかりくすぐったいと小さな身を震わせた。

「帝人君のこと、愛してるから、その分俺のことも愛してくれって。でも愛してくれなかった、愛さなかった。裏切ったよね?」
「僕が一体何を……」
「分かってる癖に。本当に困った子だなぁ」

悲しそうに笑った。

そういえばあの時―――
偶然にも静雄さんに出会ってしまったんだ。


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