短編集

□報われないこの恋
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静雄さん、あなたのことが好きなんです。
初めて会ったとき噂以上の凄い人で、そのときからカッコいいあなたに会って、お話したいと思ったんです。

でも―――……

静雄さんは、極数人の人物しかかかわらない様にしている。
周りの人間には一切、眼中にない。僕もその一人。

臨也さんは特別なんですよね。憎んでいるから。
憎まれることでもいいから静雄さんの眼中に、意識を向けられたい。

―――何故、僕には目を向けてくれないんですか?

静雄さんからしてみれば、僕はただの平凡な来良の高校生。
それが嫌なんです。静雄さんの『特別』になりたいんです。

これは嫉妬。自分でも歪んでいるとは思っている。
でも、二人が街で殺し合いしているのを見ると、モヤモヤした赤黒いものが心を支配する。
静雄さんが臨也さんと話していること、臨也さんのことを『ノミムシ』と呼ぶこと、喧嘩をすること、昔の静雄さんを知っている臨也さんも、静雄さんの眼中に入っていること、静雄さんに怨まれていることも、静雄さんの比較対照がなんでも臨也さんが基準だということも、何もかもが羨ましい。
そして、憎い。
だったら、憎い人はこの世から消せばいい。
静雄さんも臨也さんのことが嫌いで、憎くて、殺したいんでしょう?


僕は電話で臨也さんを呼び出した。
家にあったナイフを用意して街に出た。

約束の時間に近くなった頃、街中を歩いていると路地裏に臨也さんがいた。
熱心に大通りの方を伺っていた。

―――どうしてこんな所に?

少し疑問に思ったが逆に好都合なので、後ろから暗闇に紛れて歩み寄った。
さすがに5mくらい近づいたところで気づいたようだ。

「帝人君!! 会いたかったよ」
「臨也さん、僕もです」

相手から不思議さと嬉しさのような表情が読み取れた。

「どうしてここに? 待ち合わせの場所ではないよね?」
「行く途中に見かけたんで。実は、臨也さんにお願いがあります」

先ほどまでの輝いたような表情が曇って行くのがわかる。
淡々とした口調だから、今からの行動に勘付かれたのかと思ったが気づいていないようだ。
少し困ったような表情を浮かべ「なにかな?」と言う。

俯いて近づく。
目の前でピタッと止まる。

「臨也さん、」
「何? 帝人君」

やっと、僕の邪魔をする人が消える。
やっと、静雄さんの『特別』になれる。
嬉しくて笑みがこぼれた。
臨也さんのように袖口に隠し持っていたナイフを取り出し、腹部に刺した。
笑みを消し、感情を入れずに「死んでください」と言う。

あの静雄さんが殺せないだけあって、体は頑丈に出来ているようだ。

―――すばやく息の根を止めないと反撃される

そう思い、今度は深めに刺した。
ナイフは真っ赤に染まり、月の光に照らされ不気味に反射する。
すると、臨也さんは膝をつき腹部を押さえ僕を見上げた。

その表情はなんとも不思議なものだった。
まるでしょうがない、仕方が無いというような顔で僕を見つめる。
そして、不可解な笑顔を浮かべてドッと倒れこんだ。

―――あぁ、やっとこれで静雄さんが…

血の海が広がって、その中に沈んでいる臨也さんを見下ろし、その場から立ち去ろうとした時だった。
馬の嘶きが聞こえたかと思うと、セルティさんがバイクから降りて路地裏に入ってきた。
驚いた様子なのは一目瞭然だ。
セルティさんは、血を流して倒れている臨也さんと血のついたナイフを持っている僕を交互に見た。

『単刀直入に聞くが、帝人がやったのか?』

コクンと頷く。

『話は後で聞く。まずは臨也を新羅に見てもらおう。いいか?』

裏の世界で根を張っていた人だ。すぐに、事が誰かに知られることは百も承知していた。
ややこしくなる来る前に、セルティさんが黒い影で臨也さんを包み、僕をバイクの後ろに乗せた。

新羅さんは僕と臨也さんを見て驚いたものの、臨也さんを治療に取りかかる。
セルティさんに別室に誘導され、動機やらいろいろと警察の見よう見まねで尋ねてくる。

『いろいろあったと思うが、正直に答えてくれ。帝人のためにだぞ、いいな』

僕は質問に対して客観的に受け流した。
殺人を犯したという実感は無く、心も痛まなかった。
ただ、喜びと期待があるような感じだ。

新羅さんが部屋に入ってきて、僕たちを見て首を横に振る。
セルティさんと新羅さんが深刻な表情で何か話しているようだ。
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