殺つり人形

□疑劇
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『驚きました?』

「食」の国デリカで別れた時と同じように笑う。

『僕も驚きましたよ。
アースとカバネが何かしら企んでるとは分かっていましたが、カバネとキリクさんが入れ替わるなんて思ってませんでしたから。』

動揺した様子を見せないで楽しそうに嗤うノアを信じられないというようにキリクは、目を見張る。

「どうして・・・・」

『・・・・・列車でジェノスの事を話した時がありましたよね?』

唐突にノアが語る。

『あの時、僕はジェノスに勧誘されたと言いました。
マクモさんとキリクさんは「その勧誘を断ったか?」とは聞きませんでしたよね?
ご覧の通り、僕はジェノスに勧誘されて入っていたんですよ。
ジェノスのイルとシュガーと列車で戦ったから勘違いしたんですね。』

ノアは、部屋に張り巡らされたままの糸を解く。
床に糸に付いていたつららが落ちて割れた。

「どうして・・・・」

『理由、ですか。
答える義理はありませんが、答えるならば「近くに居たかったから」でしょうか。』

今だ、愕然として動揺しているキリクに背を向けてノアは扉の錠前を開けた。

『此処(ジェノス)で待っていてくださいね、キリクさん。
これから、マクモさん達を僕、自ら迎えに行きますから。』

ノアは重い扉を開けて、中にキリクを残したまま部屋を出た。

扉を開けたら、ばったり会ってしまった。


『アースか、ちょうどいい時に来たね。』


にこやかに笑ってノアは言う。


『今からちょっと出かけてくるんだ。
さっき頼んだもの出来た?』


4天死の会議で頼んだ眼帯の事だ。

無言でアースは、ノアに手を突き出す。
その手には飾り気のない黒の眼帯が。

受け取って、その場で左目に眼帯を着ける。

眼帯を付けてから、手からいつものように「天手」の糸を出そうとした。


『・・・よく出来てるね。ちゃんと「天選」を封じてる。』

「・・・・どうして、こんな物を?」

『んー?制御できない「力」を抑え込むためかな?』


ノアの左目はカバネの左目だ。
カバネの左目をノアは制御できずにいる。

例えるならば、明かりがついたままの電球と言ったところだろう。
電球は、カバネの左目。
電気は、ノアの体力。
ずっと、ついたままの電球は電気を消費し続ける。
ノアはカバネの左目を制御できないため電球を消すことが出来ない。


今までは、ノアの気力と体力でノアは保っていたが「帝都滅亡計画」などでノア本来の「天選」を多用したためにカバネの左目に耐える事が出来なくなったのだ。


元々、カバネの左目を移植は普通では持って1週間だったのをノアは、1年以上保っている。
それだけでも奇跡的だった。


そして、ノアにとっての癒し。
ブラン、ノワール、テックの事だ。
「帝都滅亡計画」でノアに特に懐いていた双子が居なくなったのがきっかけだった。

ノアは自覚していないが、双子の存在はノアにとっては大きなものだった。
双子が居なくなった事による、心的ショック、ストレスがカバネの左目によってすり減っていた体調に大きく関係したのだ。


一度崩れたバランスは、元々絶妙なバランスを取っていたノアの体調を崩した。
それが、カバネの左目の副作用である。


現在は、イルの薬やノアの気力で副作用を抑え込んだ形だ。
副作用が収まった今もノアの体調はいつ倒れてもおかしくはないもの。

そこで、ノアが考えたのが「天選」を使えなくする事。

消すことが出来ない電球に対しスイッチを付けたのだ。
つまり眼帯を付ければOFF、外せばONと言う事。


『すぐに、「天手」が使えないのは困るけどしょうがないか。
最近、体にガタが来ちゃってさ。
今、倒れるのは困るのにね。』

最初は独り言のように、最後はアースに語りかけるように言った。

『じゃあ、俺は行ってくるから。
すぐ帰ってくるからさ、中に居る彼と一緒に大人しく待ってて。』

ノアは視線で先程出て来た「蜘蛛の間」を指す。

『帰ってきたら、相手してあげるからさ。』

そう意味深げに言ってノアはアースに背を向けて廊下を歩きだした。

背後で、意味が分かったアースが「蜘蛛の間」の重い扉を乱暴に開けて中に入ったのが分かった。
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