イケメン学園

□Balance
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いつものようにいつもの放課後。
化学準備室に日誌を届けて担任教師の印をもらう。
日直の仕事はそこで終わりなので一礼してドアを開けようとしたら後ろから手を引かれた。
そのまま煙草の匂いが染み付いた白衣に抱きしめられて唇を重ねられる。
ほんの数秒の出来事。
唇が離れるときに視線が絡まるけれど、それをゆっくり外して私はそのままドアから出て行く。
特に引き止められたりしない。
……プリントを届けに行く休み時間に。
日誌を届けに行く放課後に。
その度に重なる唇。

……これはいったい何だろう。

きっかけを作ったのは私から。
それきりなら雰囲気に流されたとか言い訳も出来るだろうが……。
何度か繰り返すうち、一度だけ先生が何かを言いかけたけど私は自分からその唇を塞いだ。

それから先生は何も言ってこない。
お互いに好きとも言わず好きだとも言われず。
ただただ日常に組み込まれ繰り返される行為。


……だけど。

不自然だと思う反面、このままで良いと思っている自分がいる。

私たちは教師と生徒で。

例えばもう一歩。
もう一歩踏み出したら何かが変わるのかな?

変わる先には何があるの?

変わりたい。変わりたくない。

矛盾だらけの気持ちの上、危ういバランスを保ってここにいる。

恋を知って思い知らされた。

自分がどんなに臆病かを。

この温もりを離したくない。

このバランスを崩したくない。

だからこのまま。

ずっとこのまま。

その唇が私に触れたいと望む限り。

……永遠なぞ無いことを知っているから。





〜終〜



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