イケメン学園

□DESERT MOON
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「……らしくねぇな」

そう言って頬に触れた先生の指が……微かに震えてるのがわかる。

想いを告げたものの……返事が怖くてさっきまで震えていたのは私の方だったのに。


放課後の化学準備室。

夕日はとうに沈み、月明かりが窓から差し込んで私たちの影を重ねる。

まるで壊れ物を扱うように、そっと私の頬を包み込む節のある大きな手。

柔らかな感触が唇に降りてくる。

ぶっきらぼうな口調と裏腹に、あまりにもそれは優しい。


「……先生が好き」

煙草の匂いが染み付いた広い胸に頬を寄せる。

そっと顔を上げると見たこともないような優しくて哀しい笑顔……。




「いつかお前に見せてやりてーな……」

「……何をですか?」

先生はその問いに答えないで私の頭にアゴをのせてゆっくりと髪をすく。


準備室の薬品棚に映る先生は私の事を見ていない。

私越しに窓の向こう。

空に浮かぶ月を見ている。

月を見ながら何度も何度も優しく優しく髪をすく。


「……泣いてんのか?」

ふるふると首を振り、白衣にしがみつくようにして溢れてくるものを先生から隠した。

何が先生にそんな顔をさせてしまうのか。

私が先生にそんな顔をさせてしまったのか。

聞いてみたいけどそれを聞いてしまったらここにいられないような気がして……。





「……先生」

「ん?」

「……私のこと好きなら化学の宿題少し減らして下さい」

先生は一瞬戸惑ったような顔をしたけど、すぐにいつもの意地悪そうな笑みを浮かべた。

「……お前だけ倍にしてやろうか?」

「ええ〜それが『愛しい彼女』に対する仕打ち?」

「俺はドSだからな。『愛しい彼女』はいじめたくなるんだぜ。知らなかったか?」

「う〜。……知ってます」

重い空気を払うようにいつもの会話を無理矢理交わす。

私のおでこを指で弾く先生の目から、少しだけ哀しい色が消えた気がした。






この一瞬が永遠に続くように。

先生が幸せであるように。

ただ

ただただそれだけをガラスに映る月に祈った。




〜終〜

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