七転抜刀
□第二話
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この廃墟(というか、廃デパート)には、そこら中に腰掛けるのにちょうど良さそうなサイズの柱だったであろうコンクリートのかたまりが、無数にちらばっている。
俺と大江さんはそのかたまりに向き合うような形で腰掛けて、話し合っていた。
ちなみに、事情は全て話した。
『全て』っていう程分厚いものでもないけれど。
大江さんはふむ、と頷く。
「なるほど…、そんなこんなでここにいたのか…」
「そうなんです。大江さんが物分りのいい人で助かりました」
続いて、俺も頷いた。
大江さんが頷いたことに内心、ほっとしている。
だって、普通の人だったら「え、お前頭大丈夫?」で終わらされそうだもの。
俺は天井を仰いで、ため息をついた。
いやーこれからどうしたものかなー。困った困った。
その時、一つの疑問が俺の頭に浮かんだ。
大江さんは何故こんな所にいるんだ。
こんな廃墟に女の人が一人。駄目だろう。
俺はその事を尋ねてみようと口を開きかけた、が
大江さんがそれを遮るように突然言った。先程と同じ声色で。
「時雨。ここはな、危険だから逃げたほうがいいかも」
「いや、それはさっきも聞きましたよ。って、逃げる?」
俺は首を傾げる。
何で逃げなきゃならないんだ。
そこで、俺は大江さんの異変に気付いた。
一つ、ものすごいアルカイックスマイル。
まるで悟りを開いたかのような清々しい笑顔だ。
もう一つ、大江さんの視線が、俺の顔より遥か上に向いていた。
結果、俺の背後に何かいることが判明してしまったよ。
それと同時に、背後から複数の笑い声が聞こえた。
声色からして、中年男性。
全身から汗が滝のように吹き出す。
汗腺ぶっ壊れそう…ッ!
とてつもなく嫌な予感がした俺は、ゆっくりと振り向いた。
そこには、『や』のつく職業の方のような強面の複数の大柄な男がいた。
そんな恐ろしい顔をした男達の一人が、にんまりと笑った。
R-18じゃん!いろんな意味で。
にんまりと笑った1人の男が俺達に向かって言う。
「何やってるんだい?嬢ちゃんたち」
俺はあることに気付いた。
全員が、日本刀を腰にさしている。
中には、抜刀しかけている奴までいた。
俺は、絶望の果ての現実逃避に走った。
わああ、やさしそうな強面のおじ様たち!
なんでスキンヘッドなの?なんで着物なの?
その手に持っている日本刀で狼狩りに行くのかな?
そんな大勢で行ったら狼逃げちゃいますよーってことで、逃げなくちゃ。
一気に現実に引き戻った俺は、コンクリートのかたまりから急いで立ち上がり、走り出そうとした瞬間、
一番手前にいるスキンヘッドの男が、刀を抜き、振り上げると、そのまま俺に振り下ろした。
あ、ヤバい。殺される。
そう思った俺がとった行動は、刀が俺を斬るよりも早く、今にも自分を殺そうとしている男の腹を、蹴った。
「がっ!?」
大柄の男は、刀を振り下ろすのを中断し、二、三歩よろめきながら後ろに下がった。
あーちょっと浅かったか。
頭の中でそう思いながら、俺は驚いている大江さんの手を引いて、走り出した。
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