七転抜刀
□第二話
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俺は、長い廊下を大江さんの手を引きながら全力疾走する。
後ろを振り返ると、先程のスキンヘッドの男を覗いた男達が、追いかけてきていた。
「うわ、ヤバ…」
ぼそりと、今度こそ大江さんに聞こえないように俺は呟く。
あんな人数、一人で対処しきれないな。
大江さんは戦えなさそうだし。いや、当たり前か。
廊下の突き当たりに着た所で、少し後ろを手を引かれながら着いてきていた大江さんがスピードを上げて俺の手を引っ張った。
「こっち!」
「え!?」
突然頼もしくなった大江さんに俺は思わず声をあげる。
突き当たりは右と左に道が別れていたけど、大江さんは右に曲がる。
そして、その先にあった男子トイレに飛び込んだ。
広いとも狭いとも言えないトイレの個室に二人で飛び込み、息を殺す。
トイレの外(つまり廊下)から、男達の声が聞こえた。
どうやら、トイレに入ったところは目撃されていないようだ。
トイレの中に入ってこないことを祈る!
しばらくすると、トイレの外の声が遠ざかって行くのが分かった。
俺と大江さんは同時にため息をついた。
そして、間も開けず俺は大江さんに叫んだ。
「アイツら何なんですか!?何で刀みたいな物騒なもんぶら下げてんの!?」
落ち着きのない俺に対して、大江さんは困った、という顔をしてのんびりした口調で言う。
「そうだよねぇ、あんな怖い顔してるんだから、何か可愛いもんでも身につければ少しはキャラが緩和されて…」
「確かにアイツらの笑顔はR-18ですけど、そういう話じゃありません」
俺は一回落ち着いて、再び大江さんに尋ねる。
「すいません、アイツらは何者なんですか?」
「え?テロリストだよ。ここをアジトにしてるみたいなんだけどさ…」
「は?」
大江さんは、当たり前かのようにとんでもないことを言い放った。
テロ…リストとな?
え、マジで。そんな危険なとこだったの!?ここ!?
俺は戸惑いながら大江さんに告げる。
「え、ちょ、それは困る」
「うんいや、俺も困る」
おうむ返しのように大江さんが笑った。
すると、大江さんが「あ」と声を上げた。
「そういえば、時雨って結構強いんだな」
「へ?」
いきなりの質問に何とも間抜けな声が出てしまった。
「ほら、さっき、大男蹴り飛ばしてたじゃん」
ああ、さっきのか…。
俺は頷いて答える。
「俺、家が道場でしてね、父親に小さい時からしごいてもらってたんで」
道場自体は父さんが始めたものだから、代々受け継がれてきましたというものではないらしい。
そう言うと、大江さんは意味ありげに笑った。
「ふーん、村上時雨の父親ねぇ」
いや、何でいきなりフルネームで呼ぶんですか。
そういえば、この個室狭いな…。
ちょっと身動きしたら壁に体が当たる。
つーか、大江さんにもぶつかる。
その度に大江さんのいい匂い(体臭←)がした。
さすが女性(?)。
俺が思わず感心していると、
「そろそろ出るか?」
気がつくと、大江さんが俺の顔を覗き込んでた。
うお!びっくりした。
「うぇ!?あ、はい」
俺は馬鹿みたいに頷いて答えた。
ちょっと待ってな、と大江さんは言うとゆっくり個室の
扉を開け、外に誰もいないことを確認した。
「ん、オッケーだな。出よう」
「はい」
狭い個室から広い洗面所に出る。
電気はさすがについてないけど外が明るいらしく、窓から差し込む光で辺りは、ばっちり見渡せる。
俺はまたため息をつくと、大江さんに声をかけた。
「これからどうするんですか?」
「んー?そうだなぁ、時雨のことも心配だし、外まで一緒に行くか」
俺も外出たいし、と大江さんが言った。
俺がそれに頷こうとした
その時、
バンッという音と共に、突然トイレのドアが乱暴に開かれた。
そこには、先程の強面の男達。
「えっ」「あ」
同時に俺達は声を上げた。
そんな俺達をみて先程のスキンヘッドの男はまたもR-18の嫌らしい笑みを浮かべる。
「探したぜ?嬢ちゃん達」
思わず叫び声をあげそうになったが、ぐっとこらえ、心の中で叫ぶ。
ぎゃあああああああああ!!!!
狼狩りのおじ様たちじゃんンンン!!
しかもさっきより明らかに人数増えてる!
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