駄文・二次創作
□赤也の独白
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最初は、単なる興味だった。
興味っつっても、恋愛とかそんなんじゃない。
ただ、眼鏡を外したらどんな顔なんだろうって、そんだけ。
興味っつーか、好奇心?
すっごく真面目そうなあの人には、それくらいしかイジるところがなかった、ってのもある。
眼鏡の他に、あの髪の色とかもイジれたかもしれないけど。
あの人は、髪のこと気にしてたみたいだったから。
さすがの俺でも、人が気にしてることを直接言ったりはしない。
……怒られるならまだしも、あの人の場合、俺のことは全く責めずに一人で傷つきそうだったから。
仁王センパイとか、他のレギュラーのセンパイと話してるところとか見て、自分でも何度か話すうちに、真面目なだけな人じゃないってことが分かってきた。
無表情で、あんまり笑わないように見えるのは、眼鏡が顔を覆っているのと、感情表現とかそういうのが下手だから、なんだと思う。
でも、よく見れば笑ってるし、ペテン師とか言われてる仁王センパイ相手に、きっつい皮肉とか言って笑ってるのを見てると、他の同級生が言ってる『勉強だけのカタブツ』じゃないってことが分かる。
あの人は意外と話しやすい人だった。
いくら話しやすい人だとわかっても、仁王センパイとダブルス組んでる柳生センパイと、シングルスで、学年も違う俺じゃ、あんまり話題とかなかったから。
だから、積極的に「眼鏡はずしてくださいよ!」ってお願いするようになった。
当たり前かもしれないけど、柳生センパイはいつも断ってばかりだった。
隠されると見たくなるのか人の本能ってもので、俺は何度も「どうしてダメなんすか?」とか、見せたくない理由を聞いたり、実力行使をしようとしたけど、そのたびに柳センパイとか、真田副部長に止められた。
正直、その時はどうしても見たいってわけじゃなかったんだけど、あそこまで嫌がられると逆に見たくなるってゆーか。
柳生センパイと俺の根くらべってゆーか。
柳生センパイと話すたびに、「ところで……」って話題変えて、なんとかセンパイに「いいですよ」って許可の言葉を聞き出そうとした。
……一度もそんなこと言われたことないけど。
センパイがどう思っていたかは知らないけど、そのやりとりは俺にとってはあいさつのようなものになっていた。
センパイの素顔は、思わぬ形で見ることができた。
仁王センパイと柳生センパイの、入れ替わり。
仁王センパイが柳生センパイの格好して、柳生センパイが仁王センパイの格好して部活に出た。
最初、俺も騙されたけど、どこか二人の動きが(というか柳生センパイの仁王センパイの動きが)おかしかった。
それでも、柳センパイが
「上手いものだな、柳生。その髪は染めたのか?」
って仁王センパイ(のふりをした柳生センパイ)に言うまでわかんなかったんだけどさ。
仁王センパイは眼鏡かけてないから、柳生センパイは眼鏡を外して仁王センパイのふりをしてた。
だから、その時初めて、俺は柳生センパイの素顔を見れたってこと。
「……あの、あまり見ないで下さい」
柳生センパイは気まずそうに顔をうつむかせてたけど、眼鏡を外した柳生センパイの顔(仁王センパイの格好してたけど)なんてめったに見れないから、みんなじろじろ見てた。
センパイの素顔はかなり整ってた。
幸村部長には負けるけど。
というか、部長は……なんていうか、はかなげ? で、中性的な、美人って感じ(でも性格は全然はかなくない、むしろ怖い)だけど、柳生センパイは切れ長な目で、クール? って感じ。
まあ、仁王センパイもかなり格好良くて、女の子にかなりもてたりしてるから、その仁王センパイと入れ替われる柳生センパイの顔がいいのも当然っちゃあ当然だけど。
普通に顔がいいんだから、隠さなくてもいいのに。
そう言うと、
「……感情を読み取られるのが、嫌いなんですよ」
っていった。
でも、仁王センパイが入れ替わりの話をしたってことは、仁王センパイは柳生センパイと自分の顔が似てるのを知ってたってことだ。
そうじゃないと、『入れ替わり』なんて思いつきやしない。
つまり、柳生センパイは仁王センパイには素顔を見せた、ってこと。
俺が何度言っても見せてくんなかったのに。
仁王センパイには見せたんだ。
それに気づいたとき、なんかわからないけど、もやっとして、仁王センパイのことが少し憎らしくなった。
その時抱いた感情が“嫉妬”だと気づくのは、まだ先の話。