過去拍手部屋

□「嫉妬」
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ここは立海大附属中のテニスコート。
現在は、負け無しと呼ばれている立海大テニス部が練習を行なっている。


コートの近くの水飲み場で、練習試合の順番待ちをしているのか、どこか所在無げにコート内のラリーを見ている部員がいた。
中学生にしては派手なシルバーアッシュの髪を立たせ、一部だけ伸ばした後ろ髪をくくっている。
猫科の動物を思わせる三白眼は、今は鋭さを失い、どこか遠くを見つめているようにぼうっとしている。
だるそうに壁にもたれかかっている男に、同じテニス部員が声をかけてきた。
「仁王、今日は落ち着いているな。その方がいいぞ」
と、サラサラの前髪を揃えた純和風な顔立ちの男。
「…そうかの」
 『仁王』と呼ばれた男は無愛想に答える。
「さっき、女の子たちが『今日の仁王センパイ、いつもと違う感じがしてステキ〜』って言ってたっすよ。良かったっすね、仁王センパイ」
「…ああ」
くせ毛の後輩にも、興味無さそうに言う。
「何? イメチェン? なんか雰囲気違うぜい?」
「…まあ、の」
赤毛の部員の問いに、仁王と呼ばれた男はあいまいにうなずいた。


「……」
 皆から少し離れた場所で、その様子をじっと見ている男がいた。
 綺麗な茶髪を七三分けにしていて、銀髪の男とは逆の意味で中学生にしては珍しい。
 分厚い眼鏡に阻まれて、表情は分かりづらいが、ひき締まった口元と眉間の皺から、不快感を抱いていることが判る。
 皆に囲まれている銀髪の男が、茶髪の男に救いを求めるような視線を向けるが、茶髪の男はそれを無視してそっぽを向いた。



「こっちの方がモテるんじゃねー?」
赤毛に大声で言われたその言葉に、茶髪の男は我慢ならないといった様子でその集団に近付き、言った。

「…お前らほんとは気付きよるじゃろ!!」

それを聞いた部員達は、皆意地の悪い笑みを浮かべる。
「え、仁王センパイまた柳生センパイと入れ替わってたんすかー?」
「知らなかったぜい」
「なるほど、落ち着きがあるわけだ」
「うるさか!! お前らこっちが黙っとうのをいいことに、好き放題言いよって!! なして柳生ばっかほめよるんじゃ!!」
「済まない、入れ替わっているのに気付かなくてな。仁王だと思って褒めていたのだが。まさか柳生だったとは」
「うそつけ! 柳生やって分かっとったやろが!」
「…す、すみません…」
申し訳無さそうな銀髪の男―――柳生を尻目に、茶髪の男―――仁王はいつまでも言い争いを続けていた。




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