one's first love.

□TWO.
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まだ片付けきれていない部屋へと足をいれる。

真っ暗な一室の壁を伝い電気をつけた。

『ただいま』

しかし返ってくる返事はない。

光が照らすのは片付けきれていないダンボールの山。

***はそれさえも手に触れる気がおきず、誰も居ない小さなマンションの一室では縮こまった。

一人も慣れた

暗闇も慣れた

また一つ、ため息を着く。

(ちょっと失礼だったかな…)

帰り際にぶつかったあの人が頭にちらつく。

ぶつかってプリントまで拾ってくれたのに…

動揺してあんな逃げるような態度をとって…

(明日、謝ろう。きちんと…お礼…も…)

眠気に誘われてご飯も食べる気にさえもなれず、***はそのまま部屋の隅で深い眠りについた。




















朝。

木々の薫りを胸に吸い込み、***は背伸びをした。

今日は早起きをして学校へ向かおうと足を進めた。

早起きと言っても勝手に目が覚めただけなのだ。

いわば気分だった。







何分か歩いた頃。

何メートルか前を大きなバッグと帽子を被った人が歩いている。

(あ、れ?昨日の…人?)

近づいてみると、確かにそうだった。
そんな偶然が怖くなり、
***は180度回転しそうになった。

(ち、違う!!)

と***は大きくかぶりを振って走りだした。

そしてその背中に向かって思いっ切って口を開く。

『お、おはよう』

昨日の彼は鋭い目でちらりと私を見て、

「おはよう」

それだけ言うとまた前を向いて歩き出した。

さっきよりも早足で。

(嫌われたかな)

当然と言えば当然か。

(でも、肝心な所を言ってない!!)

『あの、昨日はごめんなさい。』

「?何故、謝る必要がある」

今度はピタリと足を止め、逆に不思議そうな顔で見つめてきた。

『え…だって…』

「俺はお前に対して怒る要素など一つもない」

『・・・・・・。』

「それだけだ。」

『・・・・・・。』

「・・・・・・。」

沈黙の後。

また彼はスタスタと歩き出した。

『あの。』

「何だ」

『名前』

「?」

『まだ、名前、聞いてなくて…だからその…』

曖昧に言葉を濁していると、

「真田」

『え?』

「真田弦一郎だ。」

歩いてはいるが、真っすぐ私を見つめて言った。

身長が高く、彼が少し見下ろす形になったが、なぜか嬉しさが込み上げた。

昨日の怖さなど今は微塵もなかった。

『さ…なだ…くん?』




呼んだ数秒後、顔を歪めた真田は帽子を深く被り直した。

(むぅ…。)





妙に嬉しくてはしゃぐ***は隙間から見える真田の赤い顔に気付いていなかった。













そういえばなぜだろう?


(彼の事を考えていると、彼に会う…)

(彼女の事を考えていると彼女に会う…)











―偶然は恋の予感―


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