one's first love.
□SEVEN.
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今日は生憎の雨だった。
朝、起きた時から漂う湿った空気に***は溜息混じりに頭を掻いた。
寝ていた布団から目を向ければ制服が見える。
立海大の新しい制服。
それ以上見える物としたら、壁と、床と自分の寝ていた布団と中身の散らばったカバンだけだった。
***の黒い目はそれらを十秒足らずで順番に見た。
また、一つ溜息。
カレンダーを見ると、金曜日。
明日は休日なのに気分が乗らない。
いや、一人の時はいつも気分なんて乗らない。
たとえ晴れであっても、雪であっても。
でも、雨の日は一段と気分が暗くなる。
もっと言えば恐怖する。吐き気がする。
目が回ってしまいそうだった。
『嫌い。雨なんて…』
ああ、今は一人。そして雨。
思い出す。思い出したくもない、記憶。
何回も何回も、同じ場面が頭いっぱいに広がる。
そして必ずこめかみが痛む。
***はのそりと這い出た布団をたたみ、冷蔵庫にある牛乳をコップ一杯だけ、飲んだ。
静かな部屋で雨の音だけが大きく聞こえた。
そうだ。
私は一人なんだ。
「おはよう」って言いそうになる。
私しかいない部屋で、「おはよう」って。
笑えてきた。
誰に?
誰に、「おはよう」?
私に?
それとも…
同時に沈黙を破るような奇怪なメロディーが流れた。
携帯の着信が点滅していた。
我に返った自分。
慌てて携帯の通話ボタンを押す。
「おはよう。起しちゃったかな?」
幸村くん。
『ううん、さっき起きたよ』
「朝練なんだけど、今日は休みにしようと思ってるんだ。だから普通通りに学校に来てもらって構わないから」
『わかった。連絡、ありがとう』
「うん。それじゃあ、学校で」
そして短い通話は終了。
連絡手段として、入部時に電話番号を交換した。
『学校で…か…』
言って、制服を着て、カバンに道具を詰め込んだ。
そして***はビニール傘を広げて家を出た。
私は、一人が好き。でも、独りは嫌い。