one's first love.
□TEN.
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そのびっくり、驚き、仰天デートから二日後。
何事もなかったかのように幸村と柳は登校してきた。
そんなどこか楽しそうな二人に真田は眉間のしわが一層増えた。
「嵌めたのか?」
真田の第一声は挨拶ではなく、これだった。
「やあ、おはよう。弦一郎。」
幸村はさも、何事もなかったかのように手を上げた。
「元気そうだな、弦一郎。」
柳も幸村と同じく楽しそうであった。
「質問に答えろ。」
やや落ち着きのない声で言ってしまう自分に腹を立てながらも、それでも聞かずにはいられない。
「ここまで気が付かないなんて、鈍感にも程があるよ、弦一郎…」
「しかし、まぁ、彼女も同じか…」
独り言のように、幸村は呟く。
彼女という単語で真田は二人を睨んだ。
「###が、どうかしたのか?」
「う―ん。場所を変えようか?」
幸村は笑顔でいるも、真田同様、何故か腹を立てているようだった。
―屋上―
「教えてもらおう。」
やや風の強い、朝。
どうにも落ち着きようのない表情で少し錆びた手すりに寄りかかった二人を見る。
「弦一郎、一言で済ませば、何て言うと思う?」
幸村は穏やかに言う。
分かり切っているような、そんな声で。
「?」
「一言で質問すれば、お前は答えられるか?」
柳も同じように真田に繰り出す。
風が緩やかに前髪を揺らす。
「どういう…。」
風が、止まった。
息も、止まった。
「「***がすきなのか?」」
それは、穏やかでない真田自身を黙らせ、絶句させる。
理解が、理性が追いつかない。
息を、飲む音が聞こえる。
とても、静かになった。
次に発した言葉は、口癖のように、ぽっと出る。
「く、くだらん!!」
と。
そう、
くだらない。
くだらない。
(俺が、誰を好きだと?)
静けさをかき消して、声を発する。
「くだらん…。」
「本当に、それが答えかい?」
今日一日を照らす太陽と青い空を見上げながら、幸村は投げかけた。
投げた。
言葉を。
真田は、受け取れない。
ボールを扱うよりも、難しい。
物ではなく、思いそのものだから。
「誰にも嘘はつかないが、自分にはつくのかい?」
「・・・・・・・。」
答えられない。
拳に力が入る。
嘘。そう、嘘。
「違う。」
違わない。
答えが無いわけではない。
あるのに、
それを避けていた自分を思い出す。
なんともみすぼらしいではないか。
滑稽ではないか?
彼女を、ただ唯一の彼女を。
この高鳴りを、答えとするならば。
その言葉は、正しいのだろう。
いや、正しさなんて本当は関係なく、想いを理解する事の方が正しさを創るのだろう。
「弦一郎。もう自分に厳しく、し過ぎるな」
「そうだね。限度を考えないと、それは時に、自らに害を為すはずだよ」
そう、あったのだ。
答えは、もう、あった。
此処に、この中に。
服を、締め付けた。
気付かぬふりをしていただけで。
実際には諦めたかったのかもしれない。
だけど。
しかし、
もう、ダメらしい。
ああ、こんなに焦がれていたのか。
我ながら失笑してしまいそうになる。
「精市、蓮二。」
真田が理解をするまで、待ってくれる、良き友。
恩が一つ、出来たようだ。
顔を上げて。
帽子を被った。
いつもの表情の真田が。
皇帝の真田弦一郎が、舞い戻った。
この一言に、どれだけ時間がかかったか…。
馬鹿らしくなる。
「俺は、アイツが好きなのだ。」
その自身が隠していた答えが、言葉に出した答えが、こんなにも簡単にコトリと隙間に、収まるなんて思いもしなかった。
ずっと焦って、じらしくって、締め付けられそうな想い。
が、やっと。
一つの物語として、蕾が咲きはじめたのだった。
二人が嬉しそうに微笑んだ。
言葉にならない親友とを一瞥し、
サンサンと降り注ぐ太陽を見上げて。
真田は、目を細めた。
(想いの先に何があろうと)
(決めるのは彼女)
(そして一人)
(さあ、次の一手はどうする?)
(真田…?)
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