REQUEST
□恋人宣言
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「ひゃっはー!!」
楽しそうな声が運動場で響いていた。
水曜日の6時間目には、この声が名物となっている。
晴れた運動場を飛んだり跳ねたり、活発に動く彼の姿は、誰もがその名を知っていた。
「赤也ー、ボールいったぞー!!」
「へへっ任せろって!!」
この時間、2年生男子は合同体育でサッカーをしていた。
女子の声援と、男子の叫び声が響くその中で、ボールを貰った一人の男子が、抜群の運動神経で一人二人と抜いていき、押し込むようにゴールする。
ゴールの後、一際大きな黄色い歓声を浴び、目立っているのは、名物、体育の英雄と呼ばれている彼、切原赤也。
「よっしゃぁ!!逆転成功!!」
嬉しそうにガッツポーズを決め、応援する女子の中に赤也は大きく手を振った。
それでまた、歓声はまた一段と大きくなり、女子はキャアキャアと叫んで手を振り返している。
事実は、誰とも知らず、自分に向けられたと思う女子たちは、嬉しそうにしている。
でも、彼が見ているのは、一人だった。
その目の先に、少し恥ずかしそうに手を振り返す、一人。
振り返された手を確認すると、嬉しそうに跳ね、応えるように赤也はまたコートを走りだした。
『元気だなぁ、赤也くんは…』
呑気に声を洩らすのは、男子サッカーを見学している同学年の女子、名前だった。
名前は体育座りをして、今だ活躍中の彼をじっと見ていた。
「赤也君、カッコいい〜」
「あの無邪気な笑顔もすっごくいいよね。」
隣からも、赤也の好評価が飛び交う。
女子の誰もが憧れて、人気者の彼。
ツキンと、痛むものが、込み上げるのを感じた。
『はぁ。』
静かに溜息を漏らした。
(何で、私なんだろう?)
明るく、人気者の彼、なんで私がいいんだろう?
なんで私が彼女なんだろう?
いつもこんな時、疑問に思って考えてしまう。
『はぁ、』
また、一つ溜息を漏らす。
幸せが逃げて行くなら、少しだけ逃げてほしい。
今、自分にはありすぎて困るほど。
でも、その分、不安も山ほど…。
「名前―!!」
今度は声がする。顔を上げると遠くで叫びながら赤也がまたゴールを決めたらしく手を振っている。
『あ、あかやくんっ』
周りの女子が、一斉に自分へと目を向ける。
「え?」という顔をする女子もいれば、微かに嫉妬に近い顔もする女子もいる。
この時が、一番大変であるのは百も承知だ。
それでも、無邪気に駆け寄ってくるのが見えた。
「この試合、勝ったらキスなぁ――!!」
『ちょっちょっとぉ!!』
(ああ、また色んな人がこっち見てるよー。)
でも。
不安だらけだけど、こういう、特別な時が幸せすぎる。
だから、やっぱり、貴方が好きなんだ。
もう一度、手を振り返す。
すると、彼は妙な顔をした。
『ん?』
妙な顔をして、
「名前!!危ねぇ!!」
そう叫んだ。
(?)
凄いスピードで走ってくる赤也を不思議がった。
そして、その直後。
名前の頭に、もの凄い衝撃がはしったかと思うと、次の瞬間は、近づきながら叫ぶ赤也の声も、顔もぼやけて、真っ暗な夜に吸い込まれた。
微かに、周りの女子の叫び声と、必死に名前を呼ぶ彼の声が聞こえた…、そして、誰かの袖を掴んだような気がする。
彼女の足元に、サッカーボールが転がった。
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