創造の果て
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第二章:雨垂れ石を穿つ 1話
見渡す限りの永遠の田畑。収穫寸前の稲穂が擽ったそうに体を揺すり、太陽の光を浴びて黄金の色に輝いていた。
しかし所々土が露出していていた。民家は遠く離れていて、此処が町外れだと言うことを明白にしていた。
その近くに青年が居た。
稲穂のような髪を同じように揺らし、浅瀬の澄んだ海の色の瞳を持っていた。年は20代半ば、とは思えない風貌とあっけらかんとした性格をしていた。
青年は鍬を持って石の上に座っていた。ただ、その手には一通の手紙を握っていた。鍬を持つ手にとんぼが止まり、まるで青年を傍観するようにじっと見ていた。
「……」
にっと青年は笑った。鍬を持ってその場から立ち上がり、一目散に自らの家に飛び込んでいった。そして勢いよく、自室の扉を開いた。そこで目に入った年端も行かぬ少女に、これまたにっと笑顔で声をかけた。
「勇弥! 今すぐ支度しろ、王都へ行くぞ!」
「ほへ、っわ!? いきなり大声出さないでよ!」
皇木勇弥。かつて49歳という中高年真っ只中で死んだ淑女は、今や17歳という若すぎる変貌をしていた。
艶やかな小宇宙を連想させる髪と瞳を持つ。肌は色白く、とても農業をしているとは思えぬほどだ。
そんな勇弥に話し掛けた青年、ライガット・アローはしたり顔で笑い、手紙を見せびらかした。
「ホズルから手紙があってな。あ、ホズルの話したの覚えてるか?」
「ライガットより若いんだから覚えてるよ」
ふぅとため息混じりに勇弥は答えた。本日は日射しもよく、洗濯物が早く乾いた。一枚一枚畳んでいるときに来たもので、正直洗濯物を畳みたくて仕方ない。
「一回、勇弥のことを話したくて手紙を出したんだ。そしたら一緒に来てくれって書いてあったんだ!」
だから行こうぜ!ライガットはおどけて笑って見せた。勇弥は呆れたと言わんばかりな目線をライガットに向けた。
「収穫しなきゃ駄目。大体、レガッツに言っ」
「荷物はこれとこれと」
「……」
反抗するだけ無駄か。勇弥は大人しく腹をくくることにした。とりあえず、レガッツに手紙を必ず出そう。そうささやかに誓った。
ライガットに連れられて――引っ張られての表現が正しいだろう――王都に出発したとき、無論レガッツの怒鳴り声により出掛けるという後味の悪い結果となった。
「ごめんレガッツ! 手紙出すから!」
着いたら手紙。まずこれだ。
レガッツは諦めたように、勇弥に手を振った。もちろん、不届き者の兄貴には振らなかったが。