君とお揃いの晩夏

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「問おう、汝が我がマスターか」

「…………………………はい?」


 いきなり変な人に声掛けられました。



君とお揃いの晩夏 1




 事は今からかなり前。いつも通りの毎日を、これまたいつも通り過ごしていた。暇だなあ、とか、早く終わらないかなあ、とか。黒板とにらみ合いっこばかりしていた私、槇利枯捺。ちなみに恋に恋する花の女子高生!


「あー、今日も衛宮くん素敵だなー」


 わかめに話しかけられて可哀想だ。
 わかめなんだよ、衛宮くん。たかがわかめ!わかめったらわかめ!海藻物なんだから毟れば万事解決な気するんだけどな……。


「……わかった」


 衛宮くんは笑いながら弓道部の部室へと向かう。またわかめに雑用を当てつけられたのかな。
 ……手伝ってあげたいのは山々なんだけど、私、衛宮くんと話したことないし……。それに好きな人前にすると上がっちゃうからな……。
 

「はあ……」


 ため息をこぼして帰路に就く。
 弓道部の前を通りかかっていた途中で、こつんと足が何かを跳ね上げた


「……うん?」


 足元を見れば何かのキーホルダー――かな?宝石っぽいかも――を蹴り上げていた。身を屈み、辺りを見渡す。誰が落としたんだろ……。
 とりあえず、とポケットにキーホルダーを突っ込み、そのまま鼻歌を歌いながら返った。明日早めにあそこに行けば、持ち主が来るかも知れないなあ。







「うーっん!」


 ぐぐぐ、と背伸びしながら辺りを見渡す。さすがに夜遅くにコンビニに来たせいか、辺りは人1人いない。寂しいなあ……。


「やっぱり勉強には柿ピーだよねー」


 コンビニ袋の中にある柿ピーを見る。
 いいよね、柿ピー。


「……あれ?」


 ズボンのポケットに違和感を感じて、手を入れてみた。あれ、これ今日拾ったキーホルダーだ。


「……なんで?」


 確かに制服のポケットにあったはず。いや、なきゃおかしい。なのに、なんで?
 

「まあ、いっか」


 後で制服にしまえば。
 早く帰らなきゃ、不審者に遭っちゃうかも。

―ビュンッ

 何かが前に降り立った。青い、何か。


「え?」


 手に長い槍を持つ、騎士っぽい人。何だろう、夢?コンビニで立ち読みしてた時に寝たのかな、私。
 頬を抓れば痛かった。


「……あ?」


 青い人がこちらに気づき、少し睨んでくる。外国人なのかな、これ、銃刀法違反だよね。
 私は意を決し声をかけようとする。が、槍に血痕が見え躊躇う。


「ひっ、血……っ!」

「……んだよ、今日はツイてねぇな」

「ぅあ、あっ……」


 がくんと腰が抜け、その場から動けなくなってしまった。
 ゆらりと青い人が立ち上がり、槍に付いていた血痕を弾き飛ばす。


―怖い、恐い、こわい、コワイ!!


 声も出ない。


「本当、ツイてねぇな。……………………あんた」


 がしゅん、と槍が腹を掠める。涙が溢れた。
 殺されるのかな、私。キーホルダーの持ち主さん、ごめんなさい。


《――生きたい?》

―……え。


 声が、聞こえる。

 
《――なら、私の名前を呼んでください》


「な、まえ……」


 口の端から血だまりのようなものが出たが、気にしてられるか。青い人はまだ槍を構える。


《――そうです。私の名前は……》

「……エージェント、」


 キーホルダーから今まで感じたことのない、空気が流れ出る。と、同時に青い人が飛び退いた。


「問おう、」


 声の主によく似た声がする。
 背中の方に誰かが立っていて、ゆっくり私の前に来る。
 手に持つ、赤い短刀が血のように月夜に光る。


「汝が我がマスターか」

「………………………………はい?」


バーはやっておりませんが。


 
 

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