君とお揃いの晩夏
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「っは、?」
「……マスター、ぽいですね」
ちらりと横目で美人さんに一瞥された。マスター?私、バーなんて営んでないんだけどなあ。
君とお揃いの晩夏 2
「……まさか、無知?」
青い人を睨みながら、美人さんがため息を零す。そして小声で何やらぶつぶつ話す。ぐっ、と腕に力を入れ、慌ててお腹を見る。あ、なんか意識しだしたら痛い。
「いたっ、いたたたた」
「……緊張感のないマスターですね」
青い人から目を離さず、美人さんは私のお腹に手を押し当てる。途端に、お腹の傷は塞がる。
「外側だけですから、動かないでくださいね」
外側だけ……!?
え、なんだか不思議いっぱいで訳わかんない。なんで傷治ったの?なんで2人とも武器持ってんの?え、美人さんどこから現れたの?こんがらがってくる。
「はっ、エージェントか。ざまーねぇな」
「……ランサーですか」
かちりと再び美人さん……じゃなくて、エージェントさんの血のような武器が月光の元煌めく。青い人、ランサーさんは槍を構える。
「ざまあねぇとは心外ですね」
「ああ?」
「此方が言われるのは、あまりにも心外です」
エージェントさんが地面に武器を突き刺す。
「《結界》」
かきん、と音が鳴る。
エージェントさんが徐に立ち上がり、ゆっくりとランサーさんを見据える。その手に、先ほどの短刀はない。
「ふぅん、なるほど。エージェントは結界も出せるのか」
「当たり前です。エージェントは、魔力のない者とも契約できるサーヴァントですから」
……んんん?
魔力?契約?結界?サーヴァント…?
やっぱさっき立ち読みしたときに寝たんだろうか。変な話ばかりしてる。
「はんっ! エージェントはサーヴァント内で最弱のサーヴァントらしいが、こんな芸当もできるなんてな」
「……」
「だが、」
槍を構え、エージェントに向かい駆け出す。
「最初の脱落者はっ、お前だ、エージェント! ゲイ・ボ、ッ!?」
「……」
いつの間にか、エージェントさんの手には、機関銃が握られていた。そして何の躊躇いもなく、撃った。え、え、え?
ランサーさんは槍を器用に回し、弾を全て辺りに飛び散らす。
「……っ、お前……」
「ざまあねぇですね、ランサー」
「っ、チッ!」
盛大に舌打ちをする。
というよりエージェントさん、カッコいいです……!
エージェントさんが更に構えると、ランサーさんは肩をすくめた。
「……止めだ、止め」
「……え?」
つい言葉が出てしまった。
「一日目から脱落者なんて、後がつまんねぇ。それに、目的は済んだ」
「……そうですか」
興醒めだと言わんばかりに機関銃はエージェントさんの手から消え、変わりに地面から短刀が飛び出してきた。ぱっ、と手に取り、ランサーさんを見やる。
「では、早々に退散を」
「……あばよ!」
しゅたんと消え去ったランサーさん。
……実はこれ、何かの映画撮影とかそんなオチ……じゃないよね、うん。だったら、私のお腹が切れた理由が分かんないし……。
「……あの匂い」
「え?」
「……いえ。なにも」
エージェントさんがこちらに振り返る。
短刀も消えていて、普通に見れば、ただ奇抜的なファッションの美人さんなんだけどな……。
「マスター、先ほども申しましたが」
「?」
「マスターは無知ですか」
……否定しかねない。