君とお揃いの晩夏
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マスターにしては無知すぎる。
いや、むしろ魔術師として自覚がない気がする。……マスターは、もしや手違いで私を招来したのだろうか?
君とお揃いの晩夏 3
「聖杯戦争?」
「はい、ご存知ないのですか」
うう、とマスターこと槇利枯捺がうなだれる。
ここは彼女の自室。母親に隠すように連れてこられたが、どうやら私が霊体化できることを知らないようだ。
一般人。――ではない。明らかに私は今、槇利枯捺から魔力を供給している。……そう言えば、前回も似たような人物がいた。彼は確か先祖が魔術師だったはず。……と、なれば彼女も?
「あの、エージェントさん」
「? なんでしょうか」
マスター槇利枯捺が聞いてくる。何だろうか。
「あの、戦争ってことは……」
「御察しの通り、サーヴァント同士、もしくは魔術師同士の殺し合いです」
頭に疑問符が浮かぶ。……ああ、サーヴァントですかね。
「サーヴァントとは、英霊です」
「英霊?」
「はい。その時代に名を馳せし英雄。時には侵略者の英雄、時には戦争の英雄、時には国の英雄、時には……私のような異端の英雄。それが死して、この聖杯戦争に魔術師の道具となる。それがサーヴァントです」
「う……ん?」
物覚えも悪いようだ。
必死に理解しようと考えているマスター。
―しかし、似ている。
誰かは分からない。
先ほどのランサーも、懐かしい匂いがした。あれは、前回のマスター代理が戦った誰かのような気がする。
……誰か。確か、憐れんだ記憶がある。必死に柵に逆らう。かつての、私のような――。
「……えっと、つまり2人組のバトルロイヤル?」
「……簡潔に申しますとそうですかね」
何故そこに結びつけたのか不思議だ。
「まあ、私たちサーヴァントは道具です」
「……エージェントさんは、道具なんですか?」
「……?」
何故か怒り心頭のようだ。はて、私は何か悪いことを言っただろうか。
「私、難しいこと分からないバカだけど……エージェントさんや、サーヴァントは道具じゃないよ」
「……」
「だって、意思があるのに道具なんて、私、なんだかやだなあ……」
稚拙ながら言葉を繋げる。
なんだろう、この人なら凄く面白そうだ。聖杯戦争をぶち壊してくれそうな気がする。
「……マスター、」
「マスターって言うの、止めない?」
「え?」
「エージェントさんがサーヴァント?なのは分かったよ。でも、私マスターなんて器じゃないし……」
「……では、なんと仰れば」
マスターはううと再び唸る。
今時の子は解らないものです……。
「普通に、枯捺とかさ……」
「……承りました、マスター」
「あ、言ったそばから!」
口が勝手に動くのだから許してほしい。
「ならマス……枯捺。私からも提案があります」
「うん?」
「さん付け、なしにしましょ」
サーヴァントにさん付けなど薄ら寒さすらする。まあ、無知なせいだろう。
「うん!」
……ガキみたい。
しかし、何も知らないまま聖杯戦争をしても、死ぬのがオチだ。ランサーの言うことが真になってしまう。
「では、枯捺。この聖杯戦争から魔術のことまで一通り教えます。準備はいいですか?」
こんなに面白い少女を殺すなんて楽しくない。ランサーには悪いが、マスターの腹の怪我、倍返しに返すから。