君とお揃いの晩夏
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うう、うう。と私は頭を押さえながら学校に行く。エージェントの話、難しすぎるんだよ……。
君とお揃いの晩夏 4
一、サーヴァントとは死んだ英雄のこと。
二、聖杯とは何でも願いを叶えてくれる素敵アイテム。
三、マスターは自分を合わせ、合計8人いる。逆も然り。
四、サーヴァントは霊体化できる。
五、私には魔術回路がある。らしい。
―やっぱり、パッとしないなあ。
いきなり言われても、はいそうですか、で済むはずがない。
私魔術師だったの!? ってつい声を張り上げそうになった。危ない危ない。母さんとご近所さんに迷惑だ。
―うーん。でも聖杯を手に入れられるのは1人だけで……。
エージェントは何故か霊体化しなかった。どうやらクラス特有(なんのこっちゃ)に、マスターとの魔術供給を切って、単独に歩けるスキルがあるみたい。……つまりいない。
―私殺されちゃうよ……。
まあ、現実味はない。
これも同じなんだが、いきなり戦いに巻き込まれたら脳が付いていかない。未だ疑問符合戦だ。
―……あれ? 衛宮くんだ。
珍しく朝から弓道場の近くにいる。……が、何やら地面を漁っている。
―もしかして。
私は衛宮くんのもとへ足早に駆けより、肩を叩いた。慌てて振り返る衛宮くん。なんだろうその顔。何故か親近感湧く。
「っと、枯捺か?」
名前覚えてくれたんだ!
嬉しいけど、昨日からの現実味のない場面を見たせいか、夢かな、と思う。
「あ、あの。衛宮くんの探してるの、これかな」
「ん?」
ポケットから昨日拾ったキーホルダーを差し出す。……よく見たら、これキーホルダーじゃない。オニキス仕様の宝石だ。
「ああ、合ってる!」
嬉しそうに衛宮くんは私の手から受け取る。よかったね、衛宮くん。
「ありがとう、枯捺。……と、女子に対しては親しすぎか」
「う、ううん! そんなことないよ!」
やばいやばいやばい。
衛宮くんの手がちょっと触れたせいか、いきなり顔が熱くなりだした。あああ、熱いよ……!
「そうか。まあ、ありがとうな」
「う、うん。どういたしまして」
にかりと笑いながら衛宮くんは遠ざかる。うわあ、今なら死んでもいい!……て、冗談でも言えない……。
「……はあ、」
いきなりテンションががた落ちする。
エージェントには悪いけど、やっぱり私マスターなんて器じゃないなあ。弱虫だし、うじうじしてるし……。護身術とかやってないし。
なんだろう、私が聖杯に選ばれた理由はなんだろう?
――『聖杯には、必ず選ばれる理由があるのです』
――『理由?』
――『はい、理由です』
うーん。世界征服とか、大金持ちとか?無難に世界平和!……こりゃ私じゃないわ。
靴箱に靴を入れていると、ふいに隣に遠坂凛ちゃんが現れた。ご令嬢で優しいんだよなあ。
「おはよう、凛ちゃん」
「あ、おはよう、枯捺さん」
心なしか眠そうだ。
そして――
―……ん?あれ?
背中に何かいる気がする。エージェント、どうやら私、魔術師より霊能力者の方が似合うみたい。
「……枯捺さん?」
「っふへ?」
あまりにもじっと見すぎたせいか、凛ちゃんの怪訝そうな声が聞こえる。あああ、恥ずかしい!
「なっ、なんでもないよ! ……と、それじゃあまた!」
脱兎の如き。
今なら何でも出来そうだ。
「……アーチャー」
「……」
小声で凛はアーチャーに話し掛ける。枯捺の見ていた先。そこには紛れもなく、弓のサーヴァントであるアーチャーがいた。
「……確認はする。ただ、」
「ただ?」
「今は、サーヴァントの姿が見当たらない」
「……」
サーヴァントを側に置かない。
そんなマスターは、足早にやられるだろうに。