君とお揃いの晩夏

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「……あ゛」

「あ、」


 先日はどうもお世話になりました、と場違いのお辞儀をしたら苦笑された。……失礼な人だ。



君とお揃いの晩夏 5




「倍返しです」

「は?」

「マスターのお腹の怪我」


 ランサーにそう言えば、あー、とお茶を濁すように唸る。
 ここは公園のとある一角。少し青みのかかったベンチに奢ってもらったアイスを手にランサーと話している。……招来され二日目に何してんだろ、私。


「あー、なんだ。……悪い」

「!? ぶっ!」


 罠?罠か?罠なんだろうか!?
 慌てて身構えた。確かにエージェントは最弱のサーヴァントだけど、罠には掛からないぞ!


「……なんで慌ててんだ」

「……いえ、なんでも」

 
 どうやらその気はないようだ。
 そうだな。あったら既にこのアイスに何か施されてるだろう。……ランサーには、無理か。


「……ところでランサー」

「お? なんだ?」

「派手すぎです」


 いや、服装を見れば地味地味だけど。
 髪の色が青で、まあ、イケメンなのが周りの注意を引く。……女性が黄色い声を上げている。(かく言う私も、髪は薄い水色に近いんだけど)


「ふーん」


 辺りをちらりと見渡す。
 ああ、そういえば幸運は最低だったな。

「お前も派手だぜ」

「は?」

「綺麗可愛いで言うなら、確かに綺麗な方だな」


 サーヴァントは、大抵眉目秀麗な人が多い。多分、自分も例外なくそうなのだろうが、ランサーに言われても有り難みも何にも感じない。それに私は女性に黄色い声を上げられる要素はない。


「見て見て、あそこのカップル」

「美男美女カップルよね!」

「でも彼氏、なんだか尻に敷かれてそう」

「わかるわかる」


 ……言わない方が良いだろう。さすが幸運が最低なランサーだ。

 
「そういえば、お前のそれ、クラス特有スキルか何かか?」

「ん?」

「お前からサーヴァントとしての気配が感じられねぇ」


 ああ、そのことですか。
 私はアイスの棒を近くのゴミ箱に放り込み、空を仰ぐ。マスター、元気かなあ……。


「まあ、そんなもんですね」

「へえ?」

「……解いたらあなたをぶっ飛ばします」

「おー怖っ」


 とか言いつつも、けらけら笑うランサー。弱いからと言って馬鹿にする……。否めないのが悔しいが。


「エージェントは自分のマスターのこと気にしないのか」

「あなたこそ」

「……はは、確かにな!」


 ランサーはそう言って共に空を仰ぐ。なるほど、今回の聖杯戦争は、少し面白そうじゃないか。


―……あの人のように、心の優しい人が聖杯戦争にいたら、どうしよう。


 私はそう思い、かぶりを振った。
 考えるだけ、無駄か。


「では、私はこれにて」

「お、帰んのか」

「はい。アイス、ありがとうございます」


 
 おー、とランサーが空返事をする。そろそろ、マスターが心配だ。……かなり、心配だ。


「ランサー、」

「ん?」

「言峰綺礼に、どうぞよろしくお願いします、とお伝えください」

「!」


 唖然としたランサーに意味深に笑いかければ、ランサーも笑い返した。歯を見せる、まさに彼らしいと感じる笑み。


「おう」

「では、また」


 晴れ晴れする青空。どうやらランサーは根はいいやつみたいだ。


「あ、彼女が帰ってくよ」

「振られたのかな」


 ……いいやつ、なんだけどなあ。
 光がきらきら目に映る。冬木の地は、相変わらず美しい。


―衛宮……切嗣は、元気だろうか。


 優しい理想の持ち主は、今も元気なのだろうか。自分に不似合いの白のロングスカートを翻しながら歩き出した。
 うーん、アイス美味しかったな。


 

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