君とお揃いの晩夏

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※若干Zero内容


 ――枯捺。何処かで聞いたことのある名前だ、と真っ先に思った。それに誰かに似ていた。私は、誰だろうと考えた。


―「…桜ちゃん…枯捺……眞衣……っ!」


 ああ、思い出した。
 あの時の、あの人の呼んでた名前だ。



君とお揃いの晩夏 9




「――……ふぁぁあ」


 朝から盛大な欠伸だと思う。
 でも朝はこう背伸びしないと落ち着かない。小さい頃からの日課だ。
 ……でも私が6歳の時は違った。普通にお父さんが起こしに来てくれたし……。お父さんに抱きつくのが好きだったなあ。


「……と、今何時だろ?」


 今日は休み。
 でも、凛ちゃんに衛宮くんの家に行くように言われた日だ。
 さすがに凛ちゃんが提案した日には行けなかったけど、休みの日からお母さんが了承してくれた!


―うっ、今から緊張してきた……!


 こういう時には息を吸えば良いんだよね?……あ、私ラマーズ方しか知らないかも。


「枯捺、おはようございます」

「うん? あ、おはようエージェント」


 緊張と無縁のエージェントが現れた。布団から出ながらエージェントを見上げると、なんだか浮かない顔をしている。はて、何があったのだろう。


「……エージェント?」

「はい?」

「……なんでもない」


 聞きづらい。なんか聞きづらい。
 私は内心ため息をつきながら起き上がり、豪快にパジャマを脱ぎ捨てた。いつもの私服に手を伸ばし、すっぽりと顔を通す。短パンを履き、髪を整え、扉に手を伸ばす。……このとき既にエージェントは霊体化していない。






 
「あら、今日は早いのね」

「うん、今日は友だちの所に行くから!」

「ふふ、そうなの」


 笑いながらお母さんはハーブティーを煎れる。私は家族写真の立てられているすぐそばに座り、お父さんに、行ってきます、と小声で挨拶した。


「それにしても熱心ね。勉強をしに長期間友だちの家に泊まるなんて」

「い、いやー、まあね」


 お母さんごめんなさい。勉強なんてあんまりしません。私、聖杯戦争っていう謎の戦いしてくるんです。


「……怪我だけは、しないように」

「んぶ?」


 トーストを口に含んだ途端、お母さんが寂しげに呟いた。そっか、お父さんも外泊中に死んだんだよね……。


「しないよ、当たり前!」

「……そう?」


 笑いながらお母さんに言えば、母は困ったように笑い、分かったわ、と答えた。これ以上ここに居たらぼろが出そうだ!
 そろそろだし、出よっかなー。


「じゃあ、お母さん。私支度してくるね!」

「ええ、いってらっしゃい」

「いってきます!」



 
「…………、そこに居るのは、エージェント、ですか?」

「……はい、その通りでございます。マスター雁夜の伴侶、眞衣」


 眞衣は静かに首を振る。言わないでと意味を込め。エージェントは口を一文字に紡ぎ、眞衣を見ていた。


「雁夜には魔術師としての素質はあったもの。そうよね、あの子にあっても不思議じゃないわ……」

「……」

「お願い、エージェント」


 眞衣がエージェントの方へ向き直る。その顔には、苦々しいものが浮かんでいる。


「あの子を、護ってやってね」



 たった一度。
 たった一度だけ、望んだことがある。マスター雁夜のサーヴァントになれたら、と。バーサーカーほど強くはないが、せめて彼の守りたい物くらい守れただろうに。
 痛みに耐えながら必死に他者を思い、憎む雁夜。

 守りたいものがある人は、強く、美しく、そして――儚かった。


 

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