君とお揃いの晩夏
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「うう、緊張する……」
衛宮くんの家の前に立って、私は辺りを見渡す。こんな時に凛ちゃんが居たら気軽に入れるのに……。意を、決して呼ぶしかないかあ……。
君とお揃いの晩夏 10
「衛宮くんー! こんにちはー!」
大声を出して元気よく衛宮くんの名前を呼んでみた。暫くして、どたどたと床を激しく走る音が聞こえた。
「……枯捺!」
はあ、はあ、と息絶え絶えに衛宮くんが笑顔を向けてくれる。う、好きな人の笑顔ってこんなにもときめく物なんだ……!
落ち着け自分、と暗示をしながら衛宮くんと視線を交わせる。
「い、いらっしゃい」
「お、お邪魔しまーす……」
な、なんで衛宮くんまで照れるの!?せっかく落ち着いてきたのに、なんだかさっきより緊張してきた!
二回目に入る衛宮くんの家。うわあ、他人の家独特の匂いだなあ。
「えっと。枯捺の部屋まで案内するな」
「うん!」
一室与えられるとか。なんて贅沢なんだ、自分!今なら悶え死にそう。
与えられた部屋は簡素だけど、私には大きな部屋だった。うわあ、と感嘆の声を漏らす。
「じゃあ、荷物を置いたら居間に来いよ」
「居間って、この間の?」
「おう」
衛宮くんはにかっ、と笑いながら部屋を出て行った。荷物なんて少しだけだし、一応机に教科書などの教材を置き、後は適当に。
魔術師らしいものなんて何もないなあ、本当。
○
居間に着いたら、凛ちゃんとセイバーさんが居た。テレビを見ていた2人は此方を見て、少し微笑んだ。
「いらっしゃい、枯捺さん」
「シロウが只今お茶を煎れている。座っては如何ですか?」
「は、はい!」
セイバーさんって堅苦しそうだなあ。なんだか、小難しいって言うのかな?うーん、可愛いのに勿体無い。
「……エージェントは?」
セイバーさんがキョロキョロ辺りを見渡しながら言う。屋根の上に行くとか言ってたかな、確か。
「屋根の上じゃないかな?」
「……そうですか」
セイバーさんは立ち上がり、そのまま庭へと歩いていった。そして屋根を見上げた。
「エージェント、貴様も降りてきたらどうだ?」
「何ですか、組み手ですか? 疲れてるので後ほど」
「いや、そんなものはしない。友との再会を祝そうと思ったのだ」
セイバーさんがそう言うと、エージェントは屋根から降りてきた。あ、いつもの戦闘服じゃない、なんだか純白のロングスカートにコートで全体的に白いぞ。エージェントが笑いながらセイバーさんを見る。
「ダークスーツがよく似合ってましたが、そのような格好も似合いますね」
「ほめ言葉に聞こえんぞ?」
「ほめ言葉ですよ」
仲良しなんだなあ、2人とも。……………………ん?友との再会?
「え、2人とも知り合い!?」
私が驚いて聞けば、2人は視線を交じらせ、まあ、と同時に呟く。
「おーい、お茶煎れてきたぞ」
私が更に追求しようと口を開いたとき、タイミングよく衛宮くんがお茶を運んできた。衛宮くん、君いつもタイミング良いね。
「煎じ茶だけど飲めるか?」
「あ、うん。飲めるよ」
「士郎、私には紅茶」
「ほんっと我が儘だな、遠坂」
本当、凛ちゃんのイメージがらがらだよ。学校でも凛ちゃんと話す機会増えたけど、我が儘な凛ちゃんが凛ちゃんらしく思えてくるよ。
湯気が香りを運んで上がる。衛宮くんはぐちぐち言いながらも、凛ちゃんに言われた通り紅茶を用意する。
……衛宮くん。君は将来尻に敷かれるタイプだよ、間違いない。
仲良く談笑するセイバーさんとエージェントの声を聞きながら、私は苦笑しざるを得なかった。