君とお揃いの晩夏

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 網羅した世界。歪曲した現実。見続けた理想は気付けば失望へとなり果てた。正義の味方など今となっては馬鹿らしい。

――『ついてないです。つく意味がないです』

 なのに、なのに。



君とお揃いの晩夏 11




 遠くからエージェントを見た時、彼女は学校の門の前で短刀を構え、振り下ろした。空間が裂け、結界が赤子の手を捻るように壊れた。
 更にエージェントが結界を張る。


―常識破りにもほどがある。


 エージェントは以前の第四次聖杯戦争の時から名を轟かせ始めた。第三次までは居ても居なくても大して変わらない、弱小のサーヴァントだった。
 だが、それが第四次からはマスターがよかったのか――はたまたエージェントが良い英霊なのか。
 かなりの期間を生き延びた。
 暗躍したヒーロー。――それがエージェントだ。


―だが、まだ底が分からん。


 先ほどまで一般人にしか見えなかったのに、いきなり魔力が身体を巡回?クラス特有スキルか?気配遮断?単独行動?――どれも当てはまらない、謎のスキル。
 だが。
 だが、倒せばどうでもいいことだ。
 ひょこひょこ笑顔で、それも堂々と入ってきたサーヴァントに、干将・莫耶を投げやった。

 ―ドゴオンッ

 大地を穿つが、敵のサーヴァントはやはり避けていた。舌打ちをして、近寄る。


「なるほど、アーチャーと来ましたか」


 がっかりしたような声色。戦いたくないオーラ満載の、最弱と称されるサーヴァント。


「……エージェントか」


 強くはない。
 だが相手にとって不足なし。
 手に返ってきた干将・莫耶を構え、エージェントに向き直る。聖杯戦争は油断したものの負けだ。

 それが、エージェントとの初見であった。






 
「アーチャー、貴方は何故屋根の上にいるのですか」

「……君には関係ないことだ」

「関係ありませんが、好奇心です」


 あの時の服装とは違う服装で私の前に立つエージェント。お節介だ、と言えば、はいそうですか、と払われた。……こいつは何がしたいんだ。


「それに、笑顔がないですね」

「……」

「楽しいことがなさそうですね」


 本当、何が言いたいんだ、こいつ。私は怪訝そうにエージェントを見やる。だが、こいつは辺りを見渡し、目線を合わせようとしない。


「お前のマスターは?」

「与えられたら自室にて、荷物を置いてます」

「ほお。……で、君は何をしに此処へ?」

「ただの、好奇心です」

「好奇心、か」


 にやりと底意地悪そうに笑ってやれば、エージェントはむっと表情を曇らせる。
 私より小さな背で、私を見上げる。睨んでいるのか、かなり目を細めている。……怖くないが。


「君は好奇心に従順なんだな」

「ほめ言葉どうも傷み入ります」

 
 明らかに恐れ入っていないだろ。そう思ったが何も言わなかった。言ったら更に機嫌が悪くなるだろう。……?


「……」

「……な、なんですか。そんなに見られたら顔に穴が空きます」


 何故、何故私は楽しんでいるのだろう。彼女をいじったり、様々な表情をさせることを、どうやら私は楽しんでいるようだ。不思議だな。


「エージェント、」


 セイバーがエージェントを呼ぶ。エージェントは屋根の上から庭を見下ろし、セイバーを見た。ぱっ、と明るい顔をする。


「貴様も降りてきたらどうだ?」

「何ですか、組み手ですか? 疲れてるので後ほど」

「いや、そんなものはしない。友との再会を祝そうと思ったのだ」


 互いに嫌み混じりに言いながらも、2人は笑い合う。そしてエージェントはこちらに笑い、セイバーの元に下りる。

 …………おかしなやつだ、本当。


 

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