君とお揃いの晩夏

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「そういえば枯捺さん、令呪の大切さはちゃんと分かってる?」

「ふへ?」


 口に衛宮くんが差し出した茶菓子を手当たり次第に突っ込んでいると、ふいに凛ちゃんがそう問いただしてきた。
 れい……?


「え。凛ちゃん、なにそれ」

「「は?」」


 衛宮くんと凛ちゃんの声が見事にハモった。



君とお揃いの晩夏 12




令呪。それはマスターの証し。
サーヴァントに強制的に命令できるもの。但し、三回まで。
三回すると令呪は消え、下手をすると自分のサーヴァントに殺される。



「へえ、そんなラッキーアイテムがあったんだ」


 凛ちゃんに言われた通りに左手の甲をまじまじと見た。半分に割ったハートの間に流れるようにある雫の形をした令呪。なるほど、確かに三回までだ。

 
「たく、しっかり者のエージェントだと思ったのに……」

「……申し訳ありません」

「なあ、枯捺」


 凛ちゃんに怒られる枯捺を横目に衛宮くんが話しかけてきた。距離にして僅か1メートル。心臓が腹踊り開始しそう!


「一週間近く令呪に気付かなかったのか?」

「誰かの落書きかなあ、て思ってた」


 珍しい色ペンだと思ったくらいだ。
 衛宮くんは苦笑気味に「そう」と返してくれた。
 なんか、幸せ感じるなあ……。一日目でこんなんじゃ、聖杯戦争の終わりまで心臓がもちそうにない。


「そうだ、枯捺」

「え、なに、衛宮くん」

「今日はお前の歓迎会も兼ねて何か作ってやりたいんだが……、何かリクエストあるか?」


 衛宮くんの手料理!衛宮くんの手料理!大事なこと!
 なにが良いかなあ、と思った矢先、ふとお父さんの事が浮かんだ。そういえば、お父さんが死んじゃった日の前日、ハンバーグ食べたっけ……。


「……ハンバーグ」

「ハンバーグか?」

 
 知らぬ間に吐き出してしまった単語を衛宮くんはしかと受け止めた。あ、ありきたりだったかな?肉じゃがとかお袋の味がよかったかな?


「よし、腕によりをかけて作ってやるからな!」

「あ、ありがとう! 衛宮くん!」

「あ、それとさ。……どうでもいい話なんだけど」


 衛宮くんの話す単語に余分もくそもへったくりもないよ!と、叫ばないよう抑制する。衛宮くんは顔を紅くさせながら、こちらの顔色を窺う。


「な、名前……士郎でいいから」

「え?」


 夢?夢なのか?
 衛宮くんが……衛宮くんが……士郎でいいから!?


「い、いいの!?」


 我を忘れるくらい大きな声で衛宮くんを見る。わあわあ、やばい。私顔が熱い!


「も、もちろんだ。その、枯捺がよければだけど……」

「うん! そうする!」


 余り感情を露わにしたら凛ちゃんやセイバーさんやエージェントになに言われる事やら。


「……じーっ」


 わざと声を出して此方を見る凛ちゃん。あ、その顔すごく何か楽しんでる顔だ。……ちくしょう、見られてた!

 
「よかったじゃない、士郎」

「と、遠坂!」


 ぼそほそ話す2人。更に凛ちゃんが何やら吹き込んで顔を真っ赤にする衛宮く……じゃなくて士郎――でいいのか――が、いきなり立ち上がる。


「ばっ、馬鹿か! するわけないだろ!?」


 そのまま玄関へと走っていき、大声で「買い物行ってくる!」と声を出した。
 ……凛ちゃんは相変わらずにやにやしてる。


「ねえ、凛ちゃん」


 思い切って聞いてみた。


「士郎になに言ったの?」

「ん? 枯捺さんには難しくて解らないことかな」

「えー?」


 不満垂れ垂れに凛ちゃんを見る。すると凛ちゃんは形の良い唇に自らの人差し指を添える。


「男はみんな狼なの。だから、夜は気をつけなさいね」

「夜……?」

「ねえ、そんなことより、私たちもお互い呼び捨てにしましょ」


 そんなことより、と凛ちゃんは一蹴した。なんだか凛ちゃん、将来いろんな意味で世渡り上手になるよ。


「う、うん。いいよ!」


 凛 が 仲間に なった!
 明日からの生活が本当に楽しみだなあ!


 
 

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