君とお揃いの晩夏
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『ふん、雑種のくせに我の前に立つか』
『その雑種に、あなたは殺されるのですよ』
『……面白い、やってみろ、雑種!』
それが、第四次聖杯戦争の最後の戦いだった。
君とお揃いの晩夏 14
〜金色異端篇
「お、美味しい!」
夕飯時。
士郎と桜ちゃんの作った特製ハンバーグとと少し薄めのお味噌汁。食卓の中心には沢山盛られた野菜。幸せだなあ、と呟きながらデミグラスソースの付いたハンバーグを口に運ぶ。
「しかし士郎も隅に置けないわねー…………とでも言うと思ったか! また女の子を住まわせて、何が目的よ!」
「ちょっ、藤ねえ! ご飯中に暴れんなって!」
藤村大河先生。
何故か半刻前から士郎に掴みかかっている先生。会話からして親しげだけど、どうやら女の子を家に居候させるのは破廉恥みたい、らしい。
凛が苦笑気味に耳元に口を寄せる。
「気にしなくて大丈夫よ、士郎がなんとかしてくれるから」
「あ、う、うん」
気にしないで、て言われても気になる。目の前の乱闘、めちゃくちゃ気になるし!
「あ、あの大河先生」
「枯捺ちゃんの言いたいことは分かるわ! でも……っ」
「でも?」
実は士郎の事が気になって気になって女の子と住むのが嫌とか!?やだ、先生と生徒の禁断の関係!?
「この男のハーレムっぷりがむかつくーっ!!」
「ぐえっ!」
「あ、ああなるほど……」
なるほど、で済む問題じゃない気もするけど。
桜ちゃんも気にしないでください、と柔らかく微笑んでくる。くっ、ま、眩しいよ桜ちゃん……!勉強も料理もできる完璧美少女!うわあ、勝てる気しないなあ。
―……あれ、セイバーさんの隣……。
エージェントがいない。
大河先生と桜ちゃんに挨拶をしてから、見てない気がする。晩御飯の準備もないみたいだし、士郎か桜ちゃんに言ったのかな?誘ったのに……。
「……」
セイバーさんが黙々とご飯を食べる。そういえば、サーヴァントってご飯を食べなくても大丈夫なんだったけ。でも、セイバーさんよく食べるなあ。腹ペコだったのかな。
口に運んだハンバーグがほんのりと甘さを引き出す。
―それにしても、なんだか、薄気味悪い……。
それはこの空間じゃない。
冬木市そのものを取り巻く、“なにか”。――10年前も感じた、不思議な悪寒を感じる。
―うう、そもそも魔術の訓練もしたことない私が、この聖杯戦争に勝てるはずないよ……。
エージェントがいても不安は拭いきれない。同盟を組んでも足を引っ張るだけ。
―自分って、だめだめなんだ……。
昔からそうだったから今更という感じもあるけど、それでも、私にもできることがあるっ!て思ってた。
―できること……。探さなきゃ。
焦りは激しくなるばかり。酷くなるばかり。
そう不安な念に押しつぶされかけていた私の肩を、凛が優しく叩いた。
「ほら、ご飯冷めるわよ」
「え?」
「ぼけーっとしてたら食べるものもなくなっちゃうわよ」
いつの間にか食卓の中心を彩っていた野菜たちが消えていた。ああ、野菜!大河先生とセイバーさんの胃袋に収まった野菜たちを惜しみつつ、取り皿に慌てて野菜を取った。
―今はまだ、まだ大丈夫。
まだ、まだまだ。
押しつぶされたりしない。
「凛ももっと食べなきゃ!」
「え? そ、それぐらい分かってるわよ!」
聖杯戦争で士郎や凛、もしかしたら他の友達(いたらだけど)と戦わなくちゃならない日が来るかもしれない。
それもいいなんて思う。
「士郎、」
「ん?」
「ありがとう」
「ッ、お、おお……」
だって、それでも好きな人の傍に居れるんだから――――。
○
「……」
イレギュラーの存在。
それは存在することのない、受肉したサーヴァント。
「ギルガメッシュ……っ!」
その放つ魔力は、遠くからでもよく感知できるほど、堂々としていた。