君とお揃いの晩夏
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「宝具……」
槇利枯捺は1人図書室で葛藤していた。目の前に積み上げた世界の人物辞典の山が、彼女のしていることを物語った。
君とお揃いの晩夏 17
〜金色異端篇
「うわあ、私正直こう、なんだろ、世界史苦手なんだよなあ……」
エジソンとかガリレオなら分かるよ。
でもヴィクトリア女王とかマルクス・アウレリウスとかシーザーとかとかとか。男か女かを判断するくらいしかできない。いや、嫌いじゃないよ?将来に役立つ役立たないかと言われたら役に立たないだけで……。
「はあ。……こんな事なら真面目に勉強しとけばよかったー……」
英霊はその時代に名を轟かした英雄。
例外を除けば、大概は教科書に載ってたりするらしい。……ほとんどがその“例外”だったらどうすんの!?てか“例外”ってまず何!?
「……エージェントは確かメソポタミアから最古の英雄が出てきたって………………。メソポタミアって、なに?」
次に積み上がるのはどうやら年表みたいだ。ため息を吐きつつ、再び本が並ぶ戸棚へと歩く。足が鉛みたいだ……。
○
「…………」
「ど、どうした、枯捺」
俺は心配そうに枯捺を見る。
まるでオーバーヒートしたロボットのように、虚ろな目をする枯捺のことがかなり気がかりだった。
枯捺は弱々しく「あ、ああ、士郎」と切なげに名前を綴った。失礼だろうけど、かなり可愛いって思った。表情に出てないよな?
「紀元前2000年前……」
「………………は?」
「ほぼ4000年前に英雄は誕生したんだって。必死に調べたんだけどまず英雄ってなんだろうって思ったんだよ英雄の定義も不明瞭で分かりにくいしちんぷんかんぷんてんやわんやででも頑張って調べたんだけどカタカナばかりで読みにくくて覚えにくくてどうもできなくてそれで」
「まっ、待て待て待て!!」
肩を掴み、慌てて枯捺を前後に揺らす。今まで遠目でしか見たことなかったが、こんなマシンガントークが言えるようなやつじゃなかったはずだ!いきなりどうしたんだ!?
「落ち着け、まずは深呼吸だ」
「ひっひっふー」
「それはラマーズ法だよな」
というより本当に混乱してるのか?
ボケる暇があるんだから大丈夫だよな。枯捺は我を取り戻し、いつものように笑顔を浮かべた。
「いやあ、歴史って深いんだねー……。ダ・ヴィンチっていう画家を覚えたよ!」
「…………あのよ、」
なに?と首を傾げる枯捺。くそっ、可愛いす…………………………じゃなくて!
「英霊の真名が必ず、教科書に載ってる、なんてことないからな」
「え?」
「悪魔とかもいるんだからな」
なんですと?、と枯捺が無意識なまま声を出す。目を丸くする姿は女の子らしく可愛い。
枯捺は不満げに「騙された」と呟いた。
「エージェントのばかやろー!」
「ばっ、ばか!」
ここ図書室だろ!おまけに英霊の名前を叫ぶなんて前代未聞だぞ!?
枯捺はため息をつき、まあいいや、と僅かに開き直った。
「士郎、これ片付けるの手伝っ…………」
「………………枯捺?」
いきなり枯捺の動きが止まった。と、同時に顔を真っ赤にして、「やっ、やっぱり、いい」と言う。なんでだよ!と言いたくなった。
「あ、えっとその………………か、肩触られて不整脈というかなんというか時間差で……」
「え? 聞こえねえぞ?」
枯捺は慌てて本を片付け始めた。……なんで真っ赤だったんだ、あいつ?