君とお揃いの晩夏

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※四次色強め。

 「真名暴き(ディスクローズ)」。
 それは第四次聖杯戦争において、エージェントに与えられたクラス特有能力だった。


君とお揃いの晩夏 16
〜金色異端篇




 そいつには真の真名がなかった。
 故に、確かな宝具を持ち得ていなかったのだ。嘲るには十分すぎる要因。思わず口走った言葉は「雑種風情が、」。
 そいつは泣きそうに笑った。否、顔を歪ませた。そいつの前だと嘲笑とよき友になれそうだ。
 弱い、何もできない、歯がゆさばかりが支配したかのような存在。それが、エージェントの第一印象であった。


 ただ、そいつの目は好きだ。
 我に向ける明確な敵意。最弱と罵られるサーヴァントに、我は紅潮した。なんて、綺麗な殺意なんだと。
 我の生きた時代にはいなかった、最弱のくせに綺麗な殺意を向ける敵に、嬉しくて嬉しくてたまらなくて昂揚して嬉しくて嬉しくて嬉しくて、闘った。

 心に潜む感情がぐにゃぐにゃ歪む感覚が分かる。もしや、これが恋い慕うという浅ましい行為なのだろうか?軽率な判断だが、ふと思う。
 しかし恋慕とは違う。例えるなら、美しく咲いた花を剣で躊躇うことなく斬るみたいな感情。……果たしてこれが恋慕か?おおよそ違う。

 そんな胸の昂揚から10年。待っていた敵が帰ってきたのを、魔力で悟った。







「ふむ、相変わらず美酒だな」


 傾けたグラスに入る金に近い美酒が、緩やかなウェーブを作る。ギルガメッシュは満足げにそれを見続け、優雅な手付きでグラスを唇に吸い付ける。何をしても絵になる。
 そんな様子を、言峰綺礼は僅かに鼻でせせら笑う。


「私には分からんな」

「それは惜しいな。どうせ暇なんだ、貴様も飲めばよいことを」
 
「暇ではないからな」


 言峰綺礼の手に、既に残り一本を指し示す令呪が怪しく光る。既に二度命じたからだ。この令呪のもとのサーヴァントは、現在奇抜なアロハシャツのファッションで海に釣りに出掛けているに違いない。
 ギルガメッシュは愉快そうに笑う。


「貴様がか? 笑えるな」

「宣戦布告されたみたいだからな」

「ほお? ……貴様のみとはつまらんな」


 自分も遊びたい、と言わんばかりにギルガメッシュは目を細める。言峰は戯れ言を、と肩をすくめた。


「生身の人間とサーヴァントでは、一方的過ぎるからな」

「エージェントであろうと油断はならぬ、とな?」

「……兎にも角にも、私は忙しい」


 言峰はそう吐き付けると、身を翻し部屋から出ていった。ギルガメッシュはつまらん、と自分1人となった部屋で呟いた。


―つまらんつまらん。何か我を満たすものはないのか。


 ギルガメッシュはグラスを机の上に置き、ふわふわなソファーから立ち上がった。ふん、と鼻で笑いながら、先ほど言峰が立ち去った扉のほうへと、自らも歩き出した。

 
―暇つぶしなら……、ある。


 それは、エージェントのマスター。
 興味があった。


―強いなら戦って消す。弱いならそのまま消す。


 行き着く先は同じ発想だと言うのに、ギルガメッシュは面白そうに笑うばかり。腹の底からこみ上げる――愉悦感。
 協会の中だというのに、ギルガメッシュのその顔は神聖な場には不似合いなほど、歪んでいた。


「我に魅せろ。――エージェントがマスター」


 愉しげに愉快そうに愉悦感を愉しげに。槇利枯捺を探しに、ギルガメッシュは扉を開けた。
 古代メソポタミア時代から変わらぬ陽光が、ギルガメッシュの美しすぎる金の髪を煌びやかに光らせる。さあ、楽しい“散歩”にでも出掛けようか。


 

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