君とお揃いの晩夏

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「枯捺が帰ってきてない?」


 衛宮士郎が怪訝そうに口を開く。玄関先で士郎の買ってきた荷物を受け取りながら、桜が頷く。


「はい。……連絡も、なくて……」


 よく見れば遠坂もいない。……胸騒ぎがする。
 士郎は桜に荷物を預け、自分も探してくると慌てて玄関から外に出た。もしもの可能性も考慮し、セイバーを呼んだ。



君とお揃いの晩夏 19
〜金色異端篇




 最初は、ただ不思議なやつだなー、と思っていただけだった。不思議、と大雑把且つ割り切れないのは、多分枯捺の人柄のせいだと思う。

 ……あの日、親父から貰ったオニキスの宝石を使った装飾品を届けて貰った時。正直、頭が真っ白になった。

 
―……え、枯捺が持ってきてくれたのか?


 そう分かると、嬉しくなった。
 凄く、凄く、嬉しかった。

 笑うと凄く可愛い枯捺。――どうして、帰ってこないのだろう?
 嫌に胸が締め付けられる。







「――マスター…………?」


 エージェントはふいにその単語を口から吐き出した。吐息に紛れて出たその言葉に、ケルト神話の若き英雄が青白いエージェントを見やる。


「おい、大丈夫かよ。顔面蒼白だぞ」

「ええ……、……すみません、マスターが緊急事態みたいです」


 サーヴァントはマスターの危険を感知することが出来る。最弱のサーヴァントとはいえ、エージェントにも勿論適用されている。
 エージェントは立ち上がり、霊体化しようとした。が、一向にその身は消えない。


「……あ、れ……、?」


 ぐわんぐわんと視界が歪む。
 変だ、こんな感覚は知らない。
 エージェントは僅かな魔力を持つ一般人に近い魔術師にも招来できるよう、魔力は自給自足が出来るようになっている。食事、運動、なんでも彼女には魔力供給にはなる。
 なのに、この感覚はまるで。


「……」

「お、おい! エージェント!?」


 エージェントはその場に倒れた。ランサーはその場に竿を投げ、慌ててエージェントを抱き上げた。
 ランサーにも見て分かる。これはまるで、“魔力を根源から断たれた”サーヴァントのようだった。


「……マスター……」


 エージェントは薄れゆく景色の中、悲しげに唇で言葉なぞった。







 “魔力の根源を断つ”。
 それが、枯捺に与えられた魔術師としての能力であった。母親の槇利眞衣の先祖代々から受け継いでいた能力に酷似しているが、類似していない。
 それは、倣うことだった。


「《王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)》」

 
 金色のサーヴァントに大量を武器を放たれ、枯捺は二度目の死を覚悟した。しかし、ギルガメッシュの宝具はまるでなかったかのように消える。


「なっ……」

「えっ、?」


 これに驚いたのは、ギルガメッシュと枯捺両者であった。

 魔術回路を一時凍結させることにより起きる能力、《眩創の魔術(ヒビロア)》。枯捺の持つ、唯一にして完全無欠の、礼装であった。


「……なるほど、面白い」


 ギルガメッシュはそう理解すると、くつくつと喉を鳴らす。それは新しい玩具を見つけた子供のようでもあった。


「気に入ったぞ、エージェントのマスターよ」

「は。え、なに……ええ?」

「名を、申せ」


 未だ己のしたことが分からない枯捺は、ギルガメッシュを戸惑いがちに見つめ、小声で名前を言った。


「槇利枯捺……」

「枯捺か。ふん、気に入ったぞ」


 ギルガメッシュは枯捺を見据えたまま、口の端を上げた。


「我の妃になれ」



 

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