君とお揃いの晩夏
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※前半部分はエージェントの過去
古代メソポタミア。
シュメール初期王朝時代のキシュ第一王朝の伝説的な王。名をエンメバラゲシ。実在が認められている王の中でも、最古の王と称されている。
彼の同時代の王に、ウルクの王、ギルガメッシュが居る。ギルガメッシュはエンメバラゲシの頭を踏みつけることで有名である――。
君とお揃いの晩夏 21
〜金色異端篇
美しい海のような髪を持つ女性。外見は齢二十歳前後に見える。光に当たれば、髪は深淵のようにも見えたり、浅瀬のようにも捉えられる。
エンメバラゲシの忠実な部下にして、ウルクや他の地に間者として赴いたことのある経歴がある。アルマは美しい顔で柔らかく笑う。
アルマは、エントランスからエンメバラゲシに城下町を見せた。夕焼け空がよく映える。エンメバラゲシは柔らかい笑みを湛えたまま、綺麗だな、と呟いた。
「エンメバラゲシ様がお作りになった、お守りになった宝物でございますね」
アルマはあどけない笑みを浮かべたまま、気恥ずかしそうに頬を掻く。女性特有の柔らかい仕草が、本当にアルマなのかと伺わせるものだった。
「私は此度の戦場に赴けません」
「……君がいたら、百人力なのにね」
「主のその言葉を聞くだけで、私は幸せでございます」
街は黄昏時を楽しんでいる。アルマは跪き、エンメバラゲシに剣を捧げた。
「ご安心を。このアルマが、必ずやこの町を、総て御守りします」
その誓いは、約束は――――主君の処刑台の上にて破られることになる。
誰も知らぬ、誰よりも中立の立場にいたいと望んだ。それは女性の物語であった。
○
「――……?」
枯捺は無意識に、誰かの手を握った。伝わる温もりに、幸せを感じた。が、すぐさま身体を起こした。
「ぶふっ」
「ふぐぁ」
ごちんと誰かにぶつかった。
ふぉぉぉ、と頭を押さえた。ちくしょう、誰だよ!と思いを込めて隣を見る。握りしめた手の先にいたのは、衛宮士郎。
「……しっ、士郎……?」
枯捺の驚いた声に、士郎は「ああ、そうだよ」とぶつかった所をさすりながら言った。
士郎かあ、士郎なんだあ。と安堵の思い。
ギルガメッシュは?という疑問。
そして、士郎の手を現在進行形で握っている羞恥の気持ち。
全てが混ざり、枯捺は更に飛び上がりそうになるが、身体が思うように動けない。上半身を起こすのが限界だった。
「な、なんで士郎が…………?」
「……お前、倒れてたんだぞ。近くの公園で!」
え、近くの公園?
可笑しい。枯捺はギルガメッシュと相撃った場所を思い返す。あそこは、倉庫地帯だったはずだ。
枯捺がそんなことを考えていると、士郎がひどく怒った表情で枯捺を見る。
「もう勝手に行動するな!」
「えっ!?」
そんな殺生な!と叫びそうになったが、枯捺は寸でのところで言葉を飲み込む。士郎の、悲しそうな眼差しに何も言えなくなる。
「勝手に……居なくなるなよ」
士郎の弱さが垣間見える。
枯捺は士郎の手が震えていることを、繋いだ手から感じ取った。
「枯捺が……」
強い力を込められ、士郎が手を握る。
「枯捺が居なきゃ、どうしようもなく不安になるんだよ……!」
力強く、士郎が枯捺を抱き締める。期待してしまうではないか。こんな場面でも、恋い慕う人に抱きしめられ舞い上がる自分がいることに、枯捺は笑いそうになる。
しかし、心とは裏腹に頬に伝うのは――何よりも温かく、儚く、ぽろぽろと零れ落ちる、涙であった。